STEVEN TANG『Disconnect To Connect』(Smallville / Octave-Lab)

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 1980年、アメリカで『アルタード・ステーツ/未知への挑戦』という映画が公開された。ケン・ラッセル監督によるこの映画は、アイソレーション・タンクの開発者である脳科学者ジョン・C・リリーがモデルだとされており、劇中にはアイソレーション・タンクを使用するシーンもある。おおまかなストーリーは、ウィリアム・ハート演じる精神心理学者エドワード・ジェサッブが生命の根源を探るというもので、その過程で幻覚剤を用いた実験もおこなうため、ヴィジュアル的にエキセントリックなシーンが頻出する。


 こうしたドラッギーな映像演出は、1996年に公開され話題となった『トレインスポッティング』でも見られるが、『トレインスポッティング』の監督であるダニー・ボイル、そして先述のケン・ラッセルは共にイギリス出身の人物。イギリスといえば、エクスタシーというドラッグを広く普及させるキッカケとなったセカンド・サマー・オブ・ラヴの震源地。なぜイギリス人は、生命の根源だったり本質に近づこうとしたがり、あるいはこれらの要素が多分に含んだ表現を多く生み出すのか? こうしたことは、日本で生まれ育った筆者には完全に理解することは難しいが、"生命"を追究する過程でコミュニケーションに強い興味を持ち、その取っ掛かりとして喜怒哀楽などの感情、さらにはセックスといった事柄に触れるのは自然だと思う。実際『アルタード・ステーツ/未知への挑戦』には、ケン・ラッセルの手によってかなり歪になってはいるものの、エロティックな性愛描写が頻繁に登場する。キス、愛撫、なんでもいいが、生活を営むうえで多くの人がするであろう愛情表現は、人という生き物の本質に近づくための入口なのかもしれない。


 シカゴに住むアジア人アーティストのスティーヴン・タンによって作られた本作『Disconnect To Connect』は、ハンブルクに拠点を置き、ヨーロッパのハウス・シーンで絶大な存在感を放つレーベル《Smallville》からリリースされていることもあり、ラリー・ハードやドリーム・2・サイエンスの流れを受け継ぐ、ロマンティックな雰囲気漂うハウス・ミュージックが収められた作品となっている。スティーヴンは、1998年の「Windy City」を皮切りに上質なシングルを作り続けており、アーティストとしてのキャリアは10年以上になるが、なんと本作がファースト・アルバムだそうだ。しかもResident Advisorのニュースによると、全収録曲のうち「Interstice」「It's Perceived As Sound」「Brink Of Dawn」の3曲は、1999年~2000年頃に完成したトラックらしい。とはいえ、本作においてこの3曲が古びた印象をあたえることはなく、むしろそのコールドスリープ的な過程を経たことによって、本作にSFチックな壮大さをもたらす重要な曲となっている。


 それぞれオープニング(「Interstice」)、6曲目(「It's Perceived As Sound」)、そしてラスト(「It's Perceived As Sound」)と、アルバム全体の流れを司るリンクマン的な位置に収録されているのも見逃せないポイントだろう。そうすることで本作は、我々が身を置いている時間軸から軽々と逸脱しているからだ。森は生きている『森は生きている』もそうだが、本作もまた、どの時代に生まれた音であり作品なのか、聴き進めていくうちに曖昧となり、終いにはわからなくなる。それは結果として、恍惚感で覆われたサウンドスケープにつながり、本作におけるまどろむようなシカゴ・ハウスのリズムが生々しく、さながら生きた心臓の鼓動みたいに思えてくる。


 そういった意味で本作は、良質なハウス・ミュージックが詰まったアルバムという枠から遥かに飛躍し、聴き手にある種のフロー体験をもたらす変性意識的アルバムとして、妖しくも甘美な魅力を放っている。



(近藤真弥)

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