SAMPHA「Dual」(Young Turks / OCTAVE-LAB)

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Sampha - Dual EP.jpg

 サブトラクトやジェシー・ウェア、最近だとドレイクのコラボレーターとして知られるサンファ。彼はシンガーというイメージの方が強いが、プロデューサー(トラックメイカー)としての顔も持っている。トラックメイキングは13歳の時にスタートさせているというだけあって、10年を越えるキャリアに裏打ちされた実力の持ち主でもある。最初の頃は、グライム・トラックを作って近所の友達をプロデュースしていたらしい。2010年にリリースしたEP「Sundanza」は、様々な音が入り乱れながら激しく展開していくダンサブルなトラックの方が目立つ作品だった。加えて、「Sundanza」でもヴォーカルを披露してはいるものの、翌年リリースされたサブトラクト『SBTRKT』での素晴らしい歌いっぷりに比べると、"片鱗を見せたに過ぎない"という感じだった。なので、余計に"プロデューサー"という印象の方が強く残ったのだろう。


 しかし今作では、ピアノとヴォーカル(ヴォイス・サンプリング)をキーに、機械的で無駄がないビートとシンセで作ったメロディーをループさせて、シンプルかつ歌が引き立つトラックを作っている。また、今作へと繋がるトラック・メイキングの模様は、イントロの「Demons」と4曲目に入る「Hesitant Oath」のようなデモ風のトラックから垣間見ることができる(「Hesitant Oath」はレコードだとB面のイントロに位置している)。特に「Demons」で登場する留守番電話の音声録音のような声が、「Can't Get Close」の冒頭に繋がっていく作品展開には、かなりハッとさせられた。こういう細かい仕掛けには本当に感動する。


 そしてヴォーカルは、スモーキーに歌い出したかと思えば、明るい空に向かって突き抜けていくようなファルセットを使ったりと、作品を通して表情豊か。さらに、総じて『SBTRKT』の時よりもソウルフルになっているようにも感じられる。しかしその一方で、弾き語り風のストレートなソウル「Indecision」と、エフェクトを多用した「Beneath The Tree」の様に、ヴォーカルの持つ二面性の部分もしっかりと立たせている。また、苦悩や悲哀や愛など、彼の心の内を実直に詠った詞の内容も、ソウル/R&Bに近づいたもうひとつの要因として少なからず影響しているのかもしれない。因みに、「Indecision」はエイミー・ワインハウスが亡くなった頃に書いた曲で(これも影響のひとつとしてあるかもしれない)、曲中で連呼している"Let it all work out"というフレーズは、なかなか勇気を持って一歩踏み出せない時に言い聞かせる「まじない」だそうだ。


 サンファと同系統のジャンルで、UK発の黒人プロデューサー兼シンガーは少ないような気がする。男性限定となると、グライム・アーティストの方が先に思いついてしまったり、クウェズやキング・ミダス・サウンドのロジャー・ロビンソンぐらいしか思いつかないので、ますます少ない気がしてしまう。なので、サンファの登場と活躍は非常に嬉しいし、彼を筆頭にもっとこの手のアーティストがUKから出てきて欲しいな、と願うばかり。最後に今作に関して言うと、このEPの後にしっかりとしたアルバムが続くのであれば、例え少し趣向が変わったとしても、「Dual」は真によくできたプロローグになると思う。





(松原裕海)


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