JAIPUR KAWA BRASS BAND『Dance Of The Cobra』(Riverboat / RICE)

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 インドのポピュラー・ミュージックといえば、日本では『ムトゥ 踊るマハラジャ』の映画のヒットのイメージからボリウッド的な華やかなイメージや伝統的なラーガなど持っている方も居ると察せられるが、国連人口基金『世界人口白書2011』の発表では12億4,200万人で、中国に次いで世界二位であり、国土の広さ、多様な民族性、言語等を含め、インドという国で捉えるには限界があるのは当たり前だが、難しいところであり、音楽に関しても、A.R.ラフマーンという桁違いのセールスを認知度と誇る現地のアーティストが居れば、ヘナート・モタ・アンド・パトリシア・ロバートのように別国からインドの奥行きの深さに魅せられ、それを作品にするアーティストも少なくない。旧くは、かのビートルズのインドへの傾倒を思い出しても早いように、あらゆる角度からインドの音楽は捉えられるが、このジャイプール・カワ・ブラス・バンドが面白いのはジプシー・ブラス、つまりはルーマニアのタラフ・ドゥ・ハイドゥークスやファンファーレ・チョカルリア、マケドニアのコチャニ・オーケスターなど日本でも人気のあるバンドとの共振が確実に見えるということで、ブラス・バンドのルーツたる軍属楽隊としての要素やオスマン帝国の起源を遡及せずとも、先入観なしに聴けば、いかにも、ヨーロッパ的なセンスが表前する。


 この『Dance Of The Cobra』は、グループとしてのスタジオ作では、実に16年振りとなるリリースになるので、彼らの説明を少し入れたい。リーダーのハミード・カーン・カワは、インドの北西部ラジャスターン州ジャイプールで生まれ。地元の音楽大学を出て、タブラ奏者として注目されるなか1984年に渡仏し、フュージョンや様々なエッセンスを混ぜ合わせてゆくことになるが、諸説あるものの、そこで故郷たるラジャスターン州は"ジプシー"のルーツとも言われるのもあってか、自然とジプシー・ブラスへと想いを固める。そこで、1995年に結成されたのがこのジャイプール・カワ・ブラス・バンドになる。なお、ハミードはムサフィール(・ジプシーズ・オブ・ラジャスターン)というグループも率い、また、双方で世界各国を巡り、女性ダンサーやジャグラーも混ざる、その華やかで賑やかなステージ・パフォーマンスは評価が高い。ゆえに、スタジオ録音作よりも動画サイトやライヴで彼らを知ったという人も多いとも思う。


 1997年の『Fanfare Du Rajasthan』から今作までの間に、彼らに対する評価やハミードの認知度も高まっていったのは主にヨーロッパ諸国の口コミや多数のライヴ・ツアーの結果も大きいが、ボーダーレスになってゆき、誰でも色んな音楽にアクセスできる時代背景が確実に後景化するだろう。今作はアレンジメントや楽曲の幅が本当に広く、やはり、ジプシー・ブラスらしく祭祀色も強く、要は典礼、ハレのための音楽としての側面も勿論あるが、ハミードのコンポーズ能力の高さが随所に伺え、複雑なリズムからブラス、シタール、弦、パーカッションなど多様な楽器の鳴りまである程度は計算されていながらも、即興の妙と不思議な展開が全体を単調にさせない。また、ジャイプールの伝承曲、トラディナショナル・カヴァーとオリジナル曲が半分ずつ収められたバランスも良い。


 まず、冒頭の「Piya Tu Ab To Aaja」の勇壮なブラスからマーチング調にじわじわと楽器が重なり、拡がってゆくサウンドスケープに引き込まれる。そして、誰もが踊りだしたくなるような軽妙さを持つ3曲目の「Gore Gore O Banke Chhore」、ハミードの作曲、音響構築面でのオリジナリティーが浮き立つ7曲目の「Mera Dil Hai Dilruba」から、8分近い大作ながらジェットコースターみたくうねるメロディーが耳に残る「Thumri Baaja」辺りのダイナミクス、男性ヴァーカルの跳ねた歌声が印象深い12曲目の「Yeh Kali Aankhen」まで、息をつかせぬほど一気に聴き通せる構成は見事だといえる。


 確かに、こういう音楽はライヴで体感してこそ、というところはあるかもしれず、少し端整な音像そのものにオリエンタリズム的な想いを持つ向きも分からないでもないが、スタジオ作としても完成度の高い内容になっていることは特筆しておきたい。



(松浦達)

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