cinema staff「Great Escape」(PONY CANYON)

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 耳鳴りと地響き、誰かの絶叫、長い思春期の闇を抜けて走り出す、壁の外へ。TVアニメ『進撃の巨人』エンディング・テーマ、岐阜出身のロック・バンドcinema staffの新曲である。メジャー・デビュー後のある時点から、彼らの世界に対する照準が定まった。一人で俺かわいそうと自己憐憫に陥っていても仕方ないから。大人になるのが怖いといって爆音の陽炎のなかで永遠に隠れることなんてできやしない。


 2006年に南山大学アメリカ民謡研究会で結成。エモ、ポスト・ロック、ハード・コア、様々な音楽要素を折衷し組み合わせ、とどめとばかりに、あらがいようのないキャッチーな歌謡メロディーを落とし込む。変拍子満載のパフォーマンスはすぐさま名古屋で話題となり、2008年《残響record》からデビュー、満を持して2012年メジャーへ。ニュー・シングル「Great Escape」は亀田誠治(ex.東京事変)プロデュース。勢いや生々しい触感を殺さずに、重厚かつ丁寧なサウンドに仕上げられている。やはり全く変わらない彼らそのものだ。全て自分で決めてきたからこそ若者のアンセムになり得た。彼らは事務所の力関係だけで出演イベントを決めたりしなかった。本当に好きで尊敬し合っているバンドとならスケジュールを無理してでも共演した。そのために必死で《残響record》の社長にかけ合ったという。友人との信頼関係を大切にするのはsoulkidsやfoltといった名古屋シーン先輩バンド達から受け継いだ伝統でもある。栄に《stiff slack》というインディー・レーベル兼レコード・ショップ兼バーがある。そこの店長である新川氏はcinema staffを無名時代からバック・アップしていた。いまだにCDのスペシャル・サンクスに彼の名を挙げる、そんな所からもバンドの姿勢がうかがえる。


 タイアップに話を移す。曲作りにあたって彼らは原作漫画『進撃の巨人』を読みこんだという。人類を食いつくす巨人の侵攻を防ぐため壁に覆われた社会、その壁すら乗り越え地響きとともに現れる悪夢。『機動戦士ガンダム』や『新世紀エヴァンゲリオン』の伝統を受け継ぐ世界観。違うのは戦闘ロボットではなく生身で戦わなくてはならないことだ。『機動戦士ガンダム』のアムロ・レイが抱いた思春期の葛藤と挫折、『新世紀エヴァンゲリオン』の碇シンジが陥ったアイデンティティー・クライシス。なぜ、何に対して戦わなければいけない? cinema staffは今までこもっていた殻を壊し、壁に囲まれた小さな王国を抜けだし世界へ打って出る。青春のメモリーや居心地のいいコミュニティーにはもう頼れない。世界の動向を意識する。たかがアニメ・ソングかもしれない。しかし彼らは原作に忠実なテーマを提示しようとして、はからずも自己変革をもたらした。今も耳鳴りと地響きはすぐそばにあるのだ。




(森豊和)

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