STAYCOOL『Urban Canyon』(LaLa Music)

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 アジアにおけるシティー・ミュージック(大きすぎる語だという気もするが)という括りは何層ものバイアスが掛かる気もするが、日本に入ってくる情報だけでなく、現地でのライヴハウスでフラットかつ知的に音楽を楽しむユースたちや色んな年齢層の方と話していると、UKでもUS、日本の音楽にも憧れや愛好はあるけれど、自分たちの街でやれることもある、と言われることも増えた。韓国のホンデ・シーン、ジャカルタのネオアコ・シーンなど面白いものは尽きないが、近年の経済発展が著しい台北でも、独自のインディー・シーンが形成され、多くのバンドが生まれている。そもそも、現地のライヴハウスには日本や欧米の人気バンドがブッキングされるのは常であり、カルチャーとしてもかなり貪欲に雑食的に拓けてきているのは知っている人も多いかもしれない。


 日本でも人気の透明雑誌や良質インディーズ・レーベル《風和日麗(A Good Day Records)》の界隈、フィメール・ヴォーカルの腊筆(Labi Wu)による歌唱も印象的ながら、ミニマルな反復をベースにした壮大なインストゥルメンタルをみせ、多彩なバンド・サウンドが特徴的な5人組バンドの草莓救星(We Save Strawberrys)、甘美なメロディーと浮遊感が心地良いフランデ、蠱惑的なアンドレアのステージ・パフォーマンスも鮮やかなポスト・パンク/ニュー・ウェイヴの血脈を受け継いだ3人組マイ・スキン・アゲインスト・ユア・スキンなど、沢山の良質なアクトが犇めいているが、このたびはセカンド・アルバムとなる『Urban Canyon』の日本盤もリリースされ、今後より活躍が期待されるポテンシャルを持ったステイクールというバンドを紹介したいと思う。


 ステイクールの結成は2006年になる。メンバーは作曲、キーボード、ドラム、ジャンベを請け負うスタンリー(陳品先)、ヴォーカル、アコースティック・ギター、作詞担当のウィル(洪璽開)、エレクトリック・ギターのブライアン(游睿威)、ベースのミッシェル(呂明憲)、ヴィオラのトレイシー(蔡純宜)、ヴァイオリンのポンポン(彭乃芸)の男女混成6人グループ。まず、影響を受けたバンド/アーティストに、ジェイソン・ムラーズ、ダニエル・パウター、マッチボックス20、ライフ・ハウス、スウィッチフットの名前が並ぶところから想像できるとおり、とてもオーセンティックなロック、ポップスの香りが要所からしながらも、コールドプレイの持つ大きさと叙情もある。それでも、ステイクールというバンド名とは裏腹に結成当初にて兵役を終え、25〜26歳の青春真っ只中という年齢ではないゆえに、疾走感や衝動よりも、オールディーズからバカラック辺りの褪せない時代への憧憬と、エヴァー・グリーンな音楽への意思がハーモニー・ワークの端々から伺えるところが興味深い。全体的に透き通った空気感、チェンバー・ポップ的な曲に視える残映が美しくもある。


 そして、ウィルのほぼ英語詩で紡がれた内容も日常の延長線に繋がり、センチメントなささやかな匙加減が良い。例えば、恋人との距離感、星や川、海といった自然、パソコン越しの景色、旅というモティーフに引っ掛かるいくつもの季節の断片、それらを丁寧に組み上げてゆくなかで、世界の、アジアの、台北という一都市の、とある若者たちの生き方の交差点を描く。


 Urban Canyon="都市峡谷"というアンビヴァレントな題目に対して、ウィルはメンバーそれぞれが台北という都会で育った人だが、世界中のどこへ行っても、大都市は車も人も多くて、忙しい。でも、ときに立ち止まって考えることがある、という意味で、「都市」と「峡谷」の二義を置いたのだという。


 だからなのだろうか、楽曲的には都市のなかで気忙しく生きる人も出てくるが、少しの"いとま"にて気まぐれな夢や細やかな気遣いを見たりしている風景に馴染む、そんな箇所が散見される。それは世界のどんな都市で生きる人たちとそうは変わらない、何気なさで。朝起きて、服を何か決めるような躍動と、それで街へ出るときの、少しの不安、倦怠と愉しさ、誰もが通底する心情に、打楽器の軽快なリズム、弦楽器の残響、カラフルなメロディー、サポート・メンバーを含めた暖かなバンド・サウンドが寄り添う。そして、ほんのわずかな先へと気持ちを鼓舞させてくれる。今作の充実した内容、そして、ライヴも含めて、これからは日本のみならず、ステイクールの歩みはより強かに刻まれてゆくだろう。



(松浦達)

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