SOFT METALS『Lenses』(Captured Tracks)

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 2013年にもなって、インディー・ミュージック側からイタロ・ディスコの更新通知が届けられるなど、誰が予想できただろう? ソフト・メタルズによる『Lenses』は、リヴァーブとディレイを少々施されたミニマルなサウンドスケープを描きながら、過去を現在にサルベージしてみせる。


 1曲目の「Lenses」は、シカゴ・ハウスのリズムを刻みながら、TB-303風の音色を持ち込むことでアシッド・ハウスも取り入れた、まるでキマイラのようなポップ・ソングだ。2010年リリースのEP「The Cold World Melts」でもアシッド・ハウスの要素は散見されたが、よりダークな音像に接近することで、アシッド・ハウスが持つ酩酊感を見事に浮かび上がらせている。ここ最近、インディー・ミュージックにもジュークが流入することで、"シカゴ"というキーワードのもとにさまざまな文脈が集っているが、その"シカゴ"と共振する点も「Lenses」の面白いところだ。そういった意味で本作は、《Software》などからリリースされてもおかしくない作品だと言える。


 しかし、何よりも驚かされるのは、冒頭で述べたイタロ・ディスコの要素である。特に、近未来的な雰囲気を漂わせるシンセとシークエンスのなかでいなたい女性ヴォーカルが漂う「Tell Me」は、チルウェイヴを通過したイタロ・ディスコそのものではないか! 「Hourglass」も、まるでジョルジオ・モロダーがプロデュースしたかのようなサウンド・プロダクションが際立つ曲であり、先頃『After Dark 2』という興味深いコンピレーション・アルバムをリリースしたレーベル、《Italians Do It Better》に通じる音楽性だ。おまけに「On A Cloud」は、ヒューマン・リーグをアップデートしたミニマル・エレ・ポップに仕上がっており、「In The Air」は『Speak & Spell』期のデペッシュ・モードが2013年にタイム・スリップして作り上げたような、いわゆるハイ・エナジー以前のシンセ・サウンドを妖しく鳴らしている。ダニエル・ミラーなどが好きな往年のニュー・ウェイヴ・ファンも泣いて踊りだすのではないだろうか? アルバム全体を覆うアーティフィシャルな空気は、モデル500やサイボトロンが描いたSF的世界観と類似するものであり、いわば初期のデトロイト・テクノを纏っている。ドレクシアのミステリアスな妖気も少し滲ませながら。


 そんな本作は、2013年から直接80年代にアクセスしたかと思えば、次は00年代に行ってみたり、はたまた90年代に遡ったりと、あたかも奔放な時間旅行者を思わせる作品だ。これまでの作品群を軽々と越える折衷性は間違いなく"今"だが、その折衷性によって編まれたサウンドは、過去の匂いを漂わせている。"死んだ" "終わった"と葬られたあらゆるトラッシュをカットアップ/コラージュし、ポップ・ソングとして蘇らせるそのさまは、さながら古の鍊金術師を思わせる。音楽についていろいろ言われる現在だが、こうした作品に出会える"今"は本当に楽しく、何より面白い。そして、自分の嗜好に忠実であること。素直に"好きなもの"を発露するだけで、十分な強度を持つ表現は可能だと本作は証明している。


 それにしても、本作がダンス・フロアに向けられた"ダンス・ミュージック"としてだけではなく、ライヴ・ハウスでも映える姿が容易に想像できる"インディー"としても捉えられている事実は、見逃すことができない重要なポイントだと思う。LCDサウンドシステムザ・ラプチャーがディスコ・パンクという名のビッグバンを引き起こしてから10年近く経つが、このビックバンは2000年代の10年にわたっておこなわれたジャンルの溶解の大きなキッカケとなり、その途中で溶解が止まりかけながらも、フレンドリー・ファイアーズなど溶解をふたたび促すバンドが出てきたおかげで、完全にストップすることはなかった。それゆえ、2010年以降は《Not Not Fun》が《100% Silk》というダンス・ミュージックに特化したサブ・レーベルを設立し、アイタルディスクロージャーといった、ダンス・フロアとライヴ・ハウスの両方を射程に置くアーティストも注目を集めている。ネットとリアルを接続したストリーミング・チャンネル《Boiler Room》も、2010年以降の音楽を語るうえで重要な存在だ。


 ヴァンパイア・ウィークエンドのクリスは、「いわゆる『インディー』って呼ばれるサウンドが1つじゃなくなってきてる」(※1)と述べているが、こうした変化は"インディー"に限らず、"ハウス"や"ロック"などにも起きているのだろう。もちろん本作も、クリスの言う「変化」によって生まれた成果のひとつである。



(近藤真弥)




※1 : 音楽雑誌『yajirushi』の18頁より引用。

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