Sayoko-daisy「Need Them But Fear Them」(Self Released)

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 アナログ・レコードが再評価されているのと同じだ。新しいことについて書こうとして最も古いことに行き着いた。奈良出身、三重在住のベッド・ルーム・アーティストSayoko-daisyの話である。彼女はサウンドクラウドで素晴らしい曲を多数発表している。しかし新作を上辞するチルウェイヴの雄ウォッシュト・アウトのように、インターネットでいきなり爆発的に注目されたわけではない。リアルな現場で、様々な地域のたくさんの人々が偶然交差し情報が行き交った結果、今この作品がある。その核となるのは彼女の歌声と表現したい衝動。それがなければ広がらない。


 本作「Need Them But Fear Them」は、インスト含む5曲入りEP。セルフ・タイトルの前作が細野晴臣に影響された歌謡テクノ・ポップ集だったのに対して、本作は一転、ダークな打ち込みビートで、豊潤なメロディーをあえて解体、断絶している。クラブ・ミュージック、ジャズ、クラシック、はたまたハード・ロック、様々な要素が顔を出す。一方でウィスパー・ヴォイスに感情は徹底的に抑制される。ためにためてラストのタイトルトラックでついに闇を切り裂くメロディーが発動する。しかしその題名は「私は他者を必要とする。しかし同時に他者を恐怖する」。通して聴くことで見えてくるのは『風の谷のナウシカ』の荒涼とした世界。しかしこの世界で我々は生き続けなければいけない。


 彼女は幼少期より音楽に親しみ作曲もしていたという。何が理由かは分からない。10年間音楽から遠ざかり過ごした時期を経て2012年から急にまた憑かれたように作曲を開始。同時期に奈良のレコード・ショップ・ジャンゴでアナログ・レコードを漁り出す。ジャンゴ店長が偶然彼女の音源をネットで聴きCDリリースを勧めた。回りまわって音楽ライターの松永良平の目に留まりCDジャーナルで取り上げられ話題になる。京都のベテラン・ミュージシャン、バンヒロシに招かれライブをしたり、下北沢モナレコーズ店長行達也とのユニットLaylaで共作曲を無料配信したり、名古屋のガールズ・バンドCRUNCHとのはっぴいえんどカバーEPでは『風街ろまん』収録「暗闇坂むささび変化」を歌い、原曲のマンドリンの音色をキーボードで再現している(このコラボレーションは彼女らが『Heavenly Music』ツアーで実際に同曲の演奏を聴き、細野晴臣と会話したことに触発されているよう)。なお今後の作品では逆に生ギターをサンプリングするアイデアもあるという。奇しくもウォッシュト・アウトと同じ道を歩んでいる。


 前作の収録曲半月の街で、彼女は自らを古い顧みられることのない人形に例えていた。自分と周囲の友達のためだけに作っていた、そんな彼女の音楽はリアル/ネット双方で様々な人々を通して広がりつつある。人と直接会い話をすること、お互いを理解しようとして時に笑い合うこと。その積み重ね。原始的な方法かもしれない。でも最も強力なのだ。風景構成法の発案者であり文筆家、精神科医の中井久夫はこんなことをよく書いている。


「僕のことをあいさつで患者を治していると馬鹿にする人もいるけど、当たり前のあいさつや握手が一番大切なんです。相手を人間として認めているということですから」


 いくらネットが発達しても人と人との出会いは重要だ。実際に出会えなくとも、芸術を生み出し伝えていくためには真の感情の交流は必須だろう。



(森豊和)



【編集部注】本作は下北沢モナレコーズ奈良レコード・ショップ・ジャンゴで購入できます。また、Sayoko-daisyさん個人でも通販で販売しています。



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