ミツメ「うつろ」(Mitsume)

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 いまや、日本のインディー・ミュージック界においてもっとも注目されるバンドのひとつとなったミツメ。しかし、彼らはその飄々とした態度を変えることはない。セカンド・アルバム『eye』をリリースしてからおこなわれたライヴをいくつか観たが、そこにはいつものミツメが佇んでいた。変に観客を煽るわけでもなく、淡々と曲を演奏していくその姿は、まるで空気のようである。しかし、それゆえ筆者は、ミツメの音楽に自然と手を伸ばしてしまうのかもしれない。空気だからこそ、聴き手の心にスッと寄り添い、ときには温もり、ときには励ましをあたえてくれる。


 それは最新EP「うつろ」でも変わらない。ただ、「うつろ」である。その言葉は、誰もが抱えているどこかネガティヴな側面をイメージさせる。しかし全4曲の本作は、暗い雰囲気を漂わせる作品などではない。むしろ、聴いていて心地よさを感じる音像は、陽性なフィーリングを纏っている。


 過剰な装飾とは無縁のギター・サウンドが全編にわたって印象的に鳴り響くさまは、ほんの少しサイケデリックではあるものの、オレンジ・ジュース、アズテック・カメラあたりを想起させるイノセンスと爽やかさが際立つ。そこに、ビーチ・ボーイズに通じるサーフ・ポップの要素を振りかけることで、燦々と輝く太陽を振り向かせる人懐っこさも生み出している。どこか内観的だった『eye』と比べると、本作はよりオープン・マインドな姿勢を窺うことができるものだ。


 とはいえ、そんな本作を聴いて思い浮かべるのは、やはり喜楽に一抹の寂寞が滲むような風景である。例えば、大勢の人が踊り狂うパーティーのなか、その輪から離れてひとりスマートフォンをいじっている女性だったり、あるいは、学校での休み時間、外で元気に遊ぶ子供たちに後ろ髪を引かれつつ図書室で読書に勤しむ少年とか。もっと言えば本作は、その女性や少年と類似する部分を持つ人に向けられた作品のように聞こえる。いわば、狂騒に馴染めない者たちのために作り上げられたユートピア。それが「うつろ」なのではないか?


 逃避的な言葉が並ぶ歌詞もそうした推察を助長させ、同時にそのユートピアがどこへ向かっているのか、とても楽しみに思わせてくれる。筆者の目からは、かつてフィッシュマンズが歩んだ日常に潜む非日常への道をなぞっているように見えるのだが・・・。とにかく次を待ちたいと思う。



(近藤真弥)

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