KOLSCH『1977』(Kompakt / Octave-Lab)

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 《Kompakt》の名を聞いてまず思い浮かべるのは、ザ・フィールドのような、柔和さと温もりを宿したトランシーなエレクトロニック・サウンドだと思う。特にギー・ボラット『Chromophobia』や、ザ・フィールド『From Here We Go Sublime』が立て続けにリリースされた2007年頃、いわゆる"シューゲイズ・ハウス"と呼ばれていた音が注目を集めていた時期に《Kompakt》を知った者なら、尚更だろう。いま挙げたふたつのアルバムは、往年のテクノ・ファンだけでなく、シューゲイザーの文脈を経由することで、多くのロック・ファンを取り込むことにも成功している。


 だが、ここ最近の《Kompakt》は、そのロック・ファンをレーベルのルーツに導くようなリリースが続いている。例えば、マイケル・メイヤー「Mantasy Remixe 2」といった作品は、ザ・フィールドやギー・ボラットをキッカケに《Kompakt》の深い森へ足を踏み入れた者を意識しつつも、やりたいことをやるという、レーベルの設立当初から現在まで変わらず根底にあるシンプルなアイデンティティーを発露している。それは先述のイメージではなく、長年レーベルを支えてきたファンに捧げられた愛情のようにも見える。とはいえ、もともと流行とは距離を置いたリリースによって支持を集めてきたレーベルなだけに、こうした孤高の道を行く方向性は、大仰に驚くことではない。


 ケルシュのデビュー・アルバム『1977』を聴いても、それは変わらない。しかし、それでも本作をプレーヤーに乗せ、繰り返し再生してしまうのは、聴いていると感慨を抱くからだ。ケルシュことルーン・ライリー・ケルシュは、デッドマウスとイモージェン・ヒープによる「Telemiscommunications」のリミックスを手掛けるなど、メジャーなフィールドで活躍している才人。それゆえ、冒頭の「Goldfisch」「Opa」にはEDMの要素が少なからず入り込んでいるものの、アルバム全体を支配する抜けの良い恍惚感と多幸感は、《Kompakt》が売りとしているサウンドそのものである。しかもそれは、"シューゲイズ・ハウス"以降のものではなく、ヴォイト・アンド・ヴォイトやマイケル・メイヤーといった、黎明期から《Kompakt》の屋台骨を支えてきたアーティストに通じる質感なのだ。この質感から窺えるのは、大きなトレンドの波が押し寄せても揺るがない力強さと自信。もちろん幅広い層に訴えかける音楽性も本作の売りではあるが、それ以上に、レーベルを運営するうえで積み上げてきた努力と膨大な試行錯誤に思いを馳せてしまう。そんな本作は、《Kompakt》ファンにとって最高のプレゼントになるはずだ。



(近藤真弥)

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