July 2013アーカイブ

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久々にザ・キンク・コントラヴァーシーの更新でございます。本当はもっと頻繁に更新したかったのですが、諸事情が重なりまして、ほぼ休止状態になっていました。申し訳ございません・・・。しかし、現在は投稿の受けつけを再開しましたので、ぜひ送っていただければと思います。詳しくはこちらのニュース記事をご覧ください。


さて、今回掲載するのは、森豊和さんの原稿です。今年4月におこなわれたパブリック・イメージ・リミテッドの来日公演について、勢いのある言葉で語ってくれました。かつてジョン・ライドンは、セックス・ピストルズのジョニー・ロットンとして《No Future》(「God Save The Queen」)と叫び、PiLのアルバム『That What Is Not』に収められた「Acid Drops」では、そんな自分の過去を諧謔的に皮肉るような行為に及んでいます(ピストルズの代表曲「God Save The Queen」をサンプリングしている)。


こうしたことをふまえて森さんの文章を読むと、より面白い観点を見つけられるかも。もちろん文章自体も興味深いものですが。「時代が否定に覆われ尽くす前にYESを復権させなければいけない」という一節には、グッときました。



(近藤真弥)

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怒髪天.jpg

 頼れる父親がいるから子どもは何度でも安心して転べる。失敗しても立ち向かうことができる。両親も近所のおばさんも頑固な髭のおやじも、町ぐるみで子ども達を抱える環境があればなお素敵だ。


 同じ内容を精神分析の世界では難しい専門用語やロジックを駆使して長々と説明する。それも必要だ。しかしこの曲はわずか4分で明快に伝えきってしまう。怒髪天feat.キヨサクによるNHK総合アニメ『団地ともお』主題歌のことだ。


 「団地でDAN!RAN!」は西城秀樹「YOUNG MAN (Y.M.C.A.)」を思わせる、運動会の行進曲のような勇ましい4つ打ちダンス・ビート。一度聴いたら頭から離れないサビのフレーズに恥ずかしげもなく弾きまくるギター・ソロ。アニメ・ソングとは本来こうあるべきで、誰でも口ずさめる親しみやすさと大衆性は怒髪天の最大の武器だろう。しかもMONGOL800のキヨサクが参加し交互にボーカルをとっている。フジロックやライジングサンといった数万人規模のフェスに出演し武道館公演を来年に控える怒髪天と、言わずと知れた国民的ロック・バンドMONGOL800のヴォーカリストの共演。それが原作漫画に合わせて作ったアニメ・ソングだというから痛快だ。


 怒髪天は稀な経歴を持つロック・バンドである。1984年札幌で結成。1991年メジャー・デビューするも1996年活動休止。1999年活動再開。2004年再メジャー・デビュー。結成4半世紀を経た今になって最も注目されている。紆余曲折あるその生き様は、しかし『団地ともお』の世界観とリンクする。増子直純の人間性、遍歴はまるで原作者小田扉の作品に出てくる主人公のようでもある。


 漫画の世界ではあるまいし、メジャー落ちしたロック・バンドが急にこの世界から消えてしまうわけではない。生きていくためには時に日雇い労働でもやってしのがなくてはならない。生活は続いていく。


 苦汁をなめた日々に培われた経験が、子ども達のためのアニメ・ソングという場で惜しげもなく発揮されている。かっこわるくてもぶざまでもちゃんととるべき責任をとる大人が今の日本にどれだけいるのか? 増子直純はそう問いかけているようだ。


 児童精神科医である佐々木正美の著作『子どもへのまなざし』を最近読んでいる。医学書ではない。初めて子育てをする人に勧めたい読みやすく面白い本だ。


 この厳しい世界で生きていくためにはエリクソンがいう「基本的信頼」が必要だという。乳幼児期に大人がどれだけかまってくれたかで世界に対する安心感が決まる。ミルクを与えられず放って置かれるのはもちろん、おもちゃをたくさん与えられて親が別事をしているのも形を変えた虐待だ。良くも悪くも大人が真剣に向かい合い相手をすることで基本的信頼が根付く。しっかり甘えることができる体験は世界への信頼につながる。すると成長して自立できるのだ。


 薬物依存症になる人々の一部にこの基本的信頼を持たない人達がいるという。ダルク女性ハウス代表でありエレファントカシマシの熱狂的ファンでもある上岡陽江は、それを「応援団を持たない人々」と表現する。子どもの頃に適切な距離で変わらず接してくれる大人達がいなかったから対人関係が下手なまま成長し、その苦しみへの自己治療として薬物に手を出すという構図。


 ロック・ミュージックも含むアート全般が時に基本的信頼を確立するためのもがきだったとしたら? 長きに渡り薬物依存に苦しんだビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンは父親との間に深刻な確執が存在したという。


 パオロ・ヒューイット著『クリエイション・レコーズ物語』はアラン・マッギーのこんな言葉で締めくくられていた。「母さん、ぼくはもう大丈夫だよ」。


 ボスニア戦災孤児救済のチャリティー・アルバム『HELP』に参加した際にオアシスのノエル・ギャラガーはこう語っていた。「大人どもはどうでもいい。けれど孤児になる子ども達のことを思うとホロリとくるよ。俺達もみんな子どもだったんだから」。


 もしもロックンロールが世界から見捨てられた孤児に向けた音楽だとしたら、「団地でDAN!RAN!」はまさしく最高の強度を持ったロックンロールであり同時にみんなのうた(アンセム)だ。


(森豊和)

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K. Locke『The Abstract View』.jpg

 トラックスマン 『Da Mind Of Traxman』RPブー『Legacy』など、ジューク・シーンにおける要注目アーティストのアルバムはひとまず出揃った、と思っていたのだけど、このことをまず、『The Abstract View』という必聴レベルのアルバムを届けてくれたK・ロックに謝らなければいけません。申し訳ない。


 K・ロックは、トラックスマンも所属する《TEKKDJZ》のクルーであり、数多くいる若手のなかでも最注目のアーティストとして、ジューク・ファンのあいだで抜群の人気を誇っている。なぜか日本のポップ・ソングをサンプリングした曲も作っていて、きゃりーぱみゅぱみゅの「PON PON PON」をネタにした「Wierd Connection」(※1)は、ネットを中心にかなり話題となった。


 しかし、K・ロックがネタありきのトラックを生み出しているのかといえばそうではなく、フットワーカーを踊らせるのはもちろんのこと、ホーム・リスニングに適したメロウな側面もあるトラック群は、ジューク入門にうってつけな親しみやすさがある。ジュークと聞くと、変則的なリズム・パターンを持ち、特に4つ打ちに馴れた者からするといまだに敬遠されがちな音楽だが、ソウルフルかつディープな本作は、そうした者たちも引き込めるキャッチーさが際立っている。この側面はK・ロックが持つ最大の武器であり、トラックスマンやRPブーといった、日本でも高い認知度を誇るトラックメイカーとの明確な違いである。


 また、本作を聴いていて興味深いのは、ジュークでありながらも、ヒップホップの要素が随所で顔を覗かせる点だ。例えばトラックスマンは、「毎日のように(J・)ディラのアルバムのサンプリングネタと抜き方、そしてフリップやチョップの方法をマネしまくった」(※2)と語るほどにヒップホップの影響を受け、それはトラックにも反映されているが、K・ロックの場合、その影響がより色濃く出ている。さらに「Want A Be」は、サンプリング・ヴォイスをヴォーカリストによる歌に変えても、ひとつの良質なポップ・ソングとして成立する構成になっており、今後K・ロックが歌モノを作っても不思議ではないと思わせ、いわばポップ・ソングとしての側面を覗かせる。K・ロックはクリス・マッコイという名義でヒップホップを作っているが、このことも本作におけるヒップホップ的要素や歌モノ要素と関係しているかもしれない。全曲にラッパーとヴォーカリストをフィーチャーしたK・ロックのアルバム、というのもぜひ聴いてみたい。



(近藤真弥)




※1 : 現在はK・ロックのサウンドクラウドから削除されていますが、《Radio-Alternator》のサイトにアップされているミックスで聴くことができます。


※2 : ミュージック・マガジン2012年7月号掲載 トラックスマンのインタヴューより引用。

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PARTTIME PDA.jpg

 サンフランシスコ出身のデヴィッド・スペックによるソロ・プロジェクト、パート・タイムは、ニュー・ウェイヴ直系の感性からか、よくアリエル・ピンクと比較される。一見妥当なようで、ある意味それは筋違いではないだろうか。


 しゃがれた脆い、しかし色気あるヴォーカルとメロディー・センスは確かに似ている。しかしシングル「Night Drive」を聴いて、私が真っ先に連想したのはワム!の「Last Christmas」だった。自分の真摯な思いを反故にして無残に捨て去った恋人へのあてつけ。夏と冬の違いはあれ同じフィーリング。


 アリエルが様々な過去への憧憬を歌いながらも、現在の自分自身のエゴを巨大化させ、全世界へ放射していくのに対して、デヴィッドはひたすら過去の恋愛に固着し、あるワン・シーンを反復し、ついには純化させていく。狂おしい情念はパッション・ピットのそれに近いかもしれない。


 今作もウォッシュト・アウト、ベスト・コーストウィークエンドらのデビュー作を送り出した《Mexican Summer》より、11年の1st『What Would You Say?』に続いてのリリース。《Burger》からのカセット『Saturday Night』、日本の《Sixteen Tambourines》から7インチ・カットされた「Night Drive」といった変則的なリリースを挟んで。


 最近こういったファン泣かせのフィジカル・リリースが実に多い。そうでないと海外ではもう買ってもらえないからか。そういえばレコード・ストア・デイの姉妹編でカセット・ストア・デイというのも行われるようだし。


 現在こちらで公式ストリーミングされているが、30代の人は幼い頃ラジオで流れていた80'sポップスの面影を見出すかもしれない。記憶の奥底に焼きついているまさにそこを刺激する。でも40代以上にはお子様向けと揶揄され、20代以下には単なるリバイバルと一蹴されるかもしれない。前作に比べギター・ポップ風味が増したとはいえ、一聴お手軽なエレ・ポップに聴こえる。はたしてどうだろうか。


 歌詞もメロディーも「僕はピエロだから一人ぼっち」というムードを一貫して表現している。風変わりな行動ゆえに疎外されていく状況。恋人は遠く離れていく。先述したワム!のジョージ・マイケルが後年レコード会社に対し訴訟を起こし、様々なトラブルを抱えていく様とオーヴァー・ラップする。


 先ごろ出版された村上春樹の新作『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』で、ワム!はヒロインの語る「ぱっとしない10代の日々」の象徴として使われている。だいたい以下のように。


「学校というシステムになじめず、私は全然目立たない存在で、ワム!のCDは全部持っていた。ボーイ・フレンドなんて影も形もない。でも心を打ち明けられる親友が2人くらいいた。だからその時代を乗り越えられたのかもしれない」


 パート・タイムはまさにピンポイントにある世代のノスタルジーを想起する音楽だ。一見、80's黄金期の華やかなりし日々を忠実に再現しているようで、「この美しい世界は今はない(もう去ってしまった)」という事実をあらかじめ内包する。デヴィッドは損なわれた何かを強迫的に再現し続けている。



(森豊和)


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carpool_7_jacket_image のコピー.jpg

 瑞々しい爽快感と溢れでる初期衝動が詰まっている。東京は高田馬場を拠点とする6人組バンドcarpool(カープール)の音楽を一言で表せば、そんなところだろうか。本作は彼ら彼女らにとって初の全国流通盤なのだが、まず、その"速さ"に驚かされる。本作に収められたすべての曲が2分台であり、軽快な曲展開もまるで一瞬の出来事のように過ぎ去っていく。鉄琴やキーボードが混じることで、ほんの少しトイ・ポップ的な可愛らしさを覗かせる瞬間もありながら、キャッチーなメロディーに寄り添うギター・サウンドが耳に残る曲の構成は、聴いていて清々しくカッコいい。


 また、ロマンが迸る歌詞にも惹きつけられる。全3曲とも、端から見れば青臭いように思える言葉選びが目立つかもしれないが、そうしたつまらない視線などにかまう必要はない。音楽が持つ魅力のひとつとして、いままで見たことがないよう景色を見せてくれる、いわばスタイルや日常を飛び越えてしまうような圧倒的想像力が挙げられる。それはジャンルを問わずに当てはまるものであり、だからこそ筆者は、音楽には常に夢があってほしいと願っているのだが、おそらくcarpoolも、音楽に夢を見ているのではないかと、本作を聴くと思ってしまう。


 そうした夢見がちな姿は、現在においてナイーヴに映ってしまうのだろうか? いやいや、夢見ることが難しくなりつつある時代に本作のような音楽を鳴らせるからこそ、carpoolのサウンドには強度が宿っている。楽しいことは決して楽ではない。それでもcarpoolは音楽を楽しむかのように、颯爽と歌を紡いでみせる。音楽のポジティヴな可能性を信じている者は気に入るはずだ。



(近藤真弥)

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 コード9のバックアップもあり、デビュー当初から大きな注目を集めてきたアイコニカ。おそらく、彼女のことをベース・ミュージック・シーンのアーティストと見ている者も多くいるだろう。まあ、それは間違いではないし、実際彼女のディスコグラフィーには、ダブステップを下地にしたトラックが多く並んでいる。しかし、本作『Aerotropolis』は、アイコニカ史上もっともベース・ミュージックの要素が減退した作品であり、より高い折衷性と音楽的彩度を獲得した飛躍作だ。


 まず、本作において際立っているのは、初期のシカゴ・ハウスを想起させる荒々しくもディープなグルーヴ。それは「Manchego」などで顕著に表れており、しかもソフト・メタルズ《100% Silk》周辺の、いわゆるインディー・ミュージック側から解釈したハウスに通じるものだ。


 また、ジェシー・ランザをフィーチャーした「Beach Mode(Keep It Simple)」は、グライムスやマリア・ミネルヴァなどのベッドルーム・ポップに近い質感を持っている。実を言うと、こうした質感はアルバム全体にわたって見られるもので、アイコニカの変化をわかりやすく示していると思う。


 そういった意味で本作は、コード9やブリアルよりも、アイタルディスクロージャーといった、ダンスフロアとライヴ・ハウスを跨ぐアーティストたちの領域に近いアルバムだ。おそらく、本作においてアイコニカが試みたのは、ダンスフロアに軸足を置きつつも、自身の音楽性をさらに拡げ、ポップ・ソングとも比肩するキャッチーさを獲得することではないだろうか? その試みは同時に、すべての音楽が特定の場所に閉じ込められることなく、あらゆる場所で鳴り響き届く可能性がある現在の面白さを浮かび上がらせている。


 そんな現在の面白さを内包する本作は図らずも、いまだセクショナリズム的に音楽と戯れる狭隘な音楽リスナーの想像力に挑むような作品となっている。



(近藤真弥)

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バッファロードーター+.jpg

 今年は何かと節目になるアーティストが多いが、シュガー吉永、大野由美子、山本ムーグの三人からなるバッファロー・ドーターも結成から20年目を迎えるという。個人的に、コーネリアスやチボ・マット、シーガル・スクリーミング・キス・ハー・キス・ハーなどを並列に聴きながら、日本内の音楽というものが、そうではない境目を溶解してゆく感覚をおぼえていた90年代後半に、彼らの音に出会ったのを明確に憶えているのもあり、意趣深い。思えば、ビースティー・ボーイズが立ち上げたインディー・レーベル《Grand Royal》とバッファロー・ドーターが契約したときの熱量と共に。《Grand Royal》がフックしたのは良質な音楽だけでなく、ストリート・カルチャーやマガジン・カルチャー、そこに集まった共同体と言おうか、自由に幅を広げていった。


 時代の空気とも合致していたのだろうが、無邪気にかつ水平に多くのものをミックスして、ハイ・センスや知性如何に限らずとも、楽しさと表現の自由を社会にぶつけてゆく時代の香りの芽吹きがそこにはあった。《Mo'Wax》を立ち上げたUKのジェームズ・ラヴェルもそうだが、90年代の半ばからDIY的に国境や言語を越えて、価値観や感性が共有されることで拡がる瀬が確実にあったと思う。今のような同軸上に多様な価値や情報量に膨大なものが逆・適応してしまう状況とはまた違い、輸出されてくる多くの雑誌、フリーペーパー、ZINE、CD、レコードなどが並ぶレコード・ショップの熱気を前にするだけでもその"未知"に胸躍った人も少なくないだろう。


 そこで、98年の彼らのまさしく、『New Rock』というタイトルの作品から聴こえてきた可塑的なサウンド。ニュー・ウェイヴ、アンビエント、ノイエ・ドイチェ・ヴェレ、当時のアセンズ、エレファント6との共振も伺えるリーチの広さは斬新だった。"何でもアリ"なようで、底流に独自の美学やあまたの音楽への敬意が感じられるところも含め、センス的なものだけでは決してない雑食的ながら、アートな佇まいには痺れた。


 一転、02年の『I』は、反復をベースにしながら、しなやかにサウンド・アトモスフィアが拡がってゆく緻密な音像と構成、エレクトロニカ的な要素もありながら、そこに生楽器の融和が美しいバレアリックな作品だった。その後の03年『Pshychic』におけるセッションを重視にしつつも、自己充足に終わらない姿勢など、都度のライヴもそうだが、つねづね、実験と自己への刷新を持って、対峙するバンドであり、こうして活動が続いてきたという轍そのものが頼もしく思える。


 90年代後半のある種の"社交場"として活発だったレーベルやカルチャーが何かと厳しい状態に、それぞれ分派してゆくなか、彼らも次第に独自の道を歩んでゆくことになったのは自明だったといえるが、この20周年記念となる『ReDiscoVer. Best, Re-recordings and Remixes of Buffalo Daughter』は題目から推察できるような、記念的なベスト、アンソロジー、回顧録といったものではない。それには、過去に何度もレーベルを移籍してきた関係で使えない音源があるなど、そういった部分を自分たちやその他のアーティストたちとともに、あくまで今の形でのバッファロー・ドーターをアップデイトしようというものだ。


 新録曲は3曲で、これがまた、面白い。「New Rock」を環ROY&鎮座DOPENESSによるKAKATOの『KARA OK』内の「インザハウス」にてビートジャックしていたものを、今回は正式なコラボレーション曲として冒頭を飾り、いきなり魅了される。続く2曲目の「Beautiful You」は20thヴァージョンとして、日暮愛葉と有島コレスケが参加している。もう1曲は、意外にもレコーディングにおいては初共演となるコーネリアスとの「Great Five Lakes」の20thヴァージョン。旧友ともいえるアーティストや新しい世代との繋ぎ目が鮮やかに巡る。


 なお、リミックス・ワークには、ビースティー・ボーイズのアドロックが担当した遊び心溢れたもの、最近、多くのアーティストのリミックス・ワークを手掛ける大阪在住のトラック・メイカーAvec Avecによる2曲が収められている。もちろん、オリジナル音源からもチョイスされているが、私的に『I』から、「Discotheque Du Paradis」「Volcanic Girl」の2曲が選ばれているのが嬉しい。ライヴ音源も含め、全14曲。時系列も横断しつつ、まったくバラバラながら、ノスタルジックな何かを感じさせず、聴いていて、奔流のようにイメージの束が前景化するのも興味深い。まるで一枚の絵を描くように、音が重ねられる過程、そう、ここには彼らの紆余曲折と果敢な挑戦心に満ちた、長い20年の、あくまで、過程が感じられる気がする。


 長い軌跡を振り返るには、届かないところもあり、ただ、このわずかな14篇のフラグメンツから原基を想起してみるための、エネルギーと全体像への誘惑がある。そして、らしい、粋な試みといえる附属している真っさらな、書き込み可能なCD-Rには個々自在に彼らのこれまでの音を詰め込んでみるなり(ときにこれからを考え、沈黙を録音させておくのもいい)、自分なりの曲リストを作ってみて、過去、現在、未来に尽きぬ想いを馳せるのも一興だと思う。


 彼らからのアイデアに満ちたこの作品は、20年を迎えた自分たちに向けたひとつのけじめのようでトライアルでもあり、多くのファンやアーティストへの感謝の花束とともに、更に進むためのささやかな便りのようなものかもしれない。だから、畏まって受け止めるのではなく、フラットに楽しみ、コンセプトたる「再発見」をたどればいい気がする。



(松浦達)

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STAYCOOL-.jpg

 アジアにおけるシティー・ミュージック(大きすぎる語だという気もするが)という括りは何層ものバイアスが掛かる気もするが、日本に入ってくる情報だけでなく、現地でのライヴハウスでフラットかつ知的に音楽を楽しむユースたちや色んな年齢層の方と話していると、UKでもUS、日本の音楽にも憧れや愛好はあるけれど、自分たちの街でやれることもある、と言われることも増えた。韓国のホンデ・シーン、ジャカルタのネオアコ・シーンなど面白いものは尽きないが、近年の経済発展が著しい台北でも、独自のインディー・シーンが形成され、多くのバンドが生まれている。そもそも、現地のライヴハウスには日本や欧米の人気バンドがブッキングされるのは常であり、カルチャーとしてもかなり貪欲に雑食的に拓けてきているのは知っている人も多いかもしれない。


 日本でも人気の透明雑誌や良質インディーズ・レーベル《風和日麗(A Good Day Records)》の界隈、フィメール・ヴォーカルの腊筆(Labi Wu)による歌唱も印象的ながら、ミニマルな反復をベースにした壮大なインストゥルメンタルをみせ、多彩なバンド・サウンドが特徴的な5人組バンドの草莓救星(We Save Strawberrys)、甘美なメロディーと浮遊感が心地良いフランデ、蠱惑的なアンドレアのステージ・パフォーマンスも鮮やかなポスト・パンク/ニュー・ウェイヴの血脈を受け継いだ3人組マイ・スキン・アゲインスト・ユア・スキンなど、沢山の良質なアクトが犇めいているが、このたびはセカンド・アルバムとなる『Urban Canyon』の日本盤もリリースされ、今後より活躍が期待されるポテンシャルを持ったステイクールというバンドを紹介したいと思う。


 ステイクールの結成は2006年になる。メンバーは作曲、キーボード、ドラム、ジャンベを請け負うスタンリー(陳品先)、ヴォーカル、アコースティック・ギター、作詞担当のウィル(洪璽開)、エレクトリック・ギターのブライアン(游睿威)、ベースのミッシェル(呂明憲)、ヴィオラのトレイシー(蔡純宜)、ヴァイオリンのポンポン(彭乃芸)の男女混成6人グループ。まず、影響を受けたバンド/アーティストに、ジェイソン・ムラーズ、ダニエル・パウター、マッチボックス20、ライフ・ハウス、スウィッチフットの名前が並ぶところから想像できるとおり、とてもオーセンティックなロック、ポップスの香りが要所からしながらも、コールドプレイの持つ大きさと叙情もある。それでも、ステイクールというバンド名とは裏腹に結成当初にて兵役を終え、25〜26歳の青春真っ只中という年齢ではないゆえに、疾走感や衝動よりも、オールディーズからバカラック辺りの褪せない時代への憧憬と、エヴァー・グリーンな音楽への意思がハーモニー・ワークの端々から伺えるところが興味深い。全体的に透き通った空気感、チェンバー・ポップ的な曲に視える残映が美しくもある。


 そして、ウィルのほぼ英語詩で紡がれた内容も日常の延長線に繋がり、センチメントなささやかな匙加減が良い。例えば、恋人との距離感、星や川、海といった自然、パソコン越しの景色、旅というモティーフに引っ掛かるいくつもの季節の断片、それらを丁寧に組み上げてゆくなかで、世界の、アジアの、台北という一都市の、とある若者たちの生き方の交差点を描く。


 Urban Canyon="都市峡谷"というアンビヴァレントな題目に対して、ウィルはメンバーそれぞれが台北という都会で育った人だが、世界中のどこへ行っても、大都市は車も人も多くて、忙しい。でも、ときに立ち止まって考えることがある、という意味で、「都市」と「峡谷」の二義を置いたのだという。


 だからなのだろうか、楽曲的には都市のなかで気忙しく生きる人も出てくるが、少しの"いとま"にて気まぐれな夢や細やかな気遣いを見たりしている風景に馴染む、そんな箇所が散見される。それは世界のどんな都市で生きる人たちとそうは変わらない、何気なさで。朝起きて、服を何か決めるような躍動と、それで街へ出るときの、少しの不安、倦怠と愉しさ、誰もが通底する心情に、打楽器の軽快なリズム、弦楽器の残響、カラフルなメロディー、サポート・メンバーを含めた暖かなバンド・サウンドが寄り添う。そして、ほんのわずかな先へと気持ちを鼓舞させてくれる。今作の充実した内容、そして、ライヴも含めて、これからは日本のみならず、ステイクールの歩みはより強かに刻まれてゆくだろう。



(松浦達)

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rega ad.jpg

 骨太でありながら包容力に満ちた演奏で常にファンを魅了している、ギター2人、ベース、ドラムの4人組インスト・ロックバンド、レガ。彼らが眼鏡市場のCM「鯖江モード篇」用に制作したのがこちら(CM用に作った曲なので、広告という意味そのままの「ad」というタイトルにしたらしい)。


 眼鏡産業が盛んな福井県鯖江市の職人たちが、手仕事で物を作っていく様や鉄を打つ硬質な音、頑固な気質や情熱をイメージして作られた曲だけあって、一層成熟して豊かになった音楽性を披露している。本作を聴けば、彼らが己を誇示する力をめきめきとつけてきたことがよくわかるのだ。


 ロックがもともと持っていたオルタナ成分をグッと押し進めたハイブリッドなサウンド・アプローチ。ギター・プレイを存分にフィーチャーしつつも、強烈に印象に残るドラミングが凄い。そして、ミドル・テンポな楽曲ながら、持ち味の疾走感を失うことはなく、さらに、風格さえ漂うメロディーの成熟ぶりに驚かされる。人の弱さではなく強さに焦点を当てた、ハード・ボイルド小説のようなムード、時空間の感覚を麻痺させるさまざまな肌触りのサウンド・・・。独自の音楽話法を確立させた傑作。



(粂田直子)




【編集部注】「ad」はライヴ会場限定シングルです。

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音楽配信サイトオトトイ傘下TV♭(フラット)で絶賛放送中、テレヴィジョン・クッキーシーン。「最新のものと昔のものを適当に混ぜつつ、時代を超えていい曲(いいミュージック・ヴィデオ)をがんがんかけていく!」というのが基本コンセプトです。


全10曲程度で合計35~55分くらい(昔のLP1枚分くらい)のセットリストが、基本「隔週」木曜日22時に更新され、時間枠いっぱいに何度もリピート・ストリーミング放送中!


初回放送時、最初にセットリストが一巡するくらいまで、今回のセレクター伊藤がツイッターの個人アカウントから軽く(?)曲紹介をおこなう予定です...というか、今回は初回放送から1時間をきった直前告知になってしまいました...。すみません...。


7月18日(木)~7月31日(水)に放送される第29弾は、アークティック・モンキーズの新曲にはじまって、元クリエイション・レコーズ主宰者アラン・マッギーが始めた新レーベル、359ミュージックから作品をリリースする予定のミネラルまで、全10曲、約50分。


昨年から今年にかけての新しいヴィデオ8曲にまじって、00年代ものと80年代ものが1曲づつ、というバランスになっています。


放送日時は以下のとおり。


7月18日 (木) 22:00-24:00 ※初回放送

7月19日 (金) 18:00-20:00 ※再放送(以下同)

7月20日 (土) 10:00-12:00

7月21日 (日) 22:00-24:00

7月22日 (月) 13:00-16:00

7月23日 (火) 16:00-18:00

7月24日 (水) 18:00-20:00

7月25日 (木) 22:00-24:00

7月26日 (金) 18:00-20:00

7月27日 (土) 11:00-13:00

7月28日 (日) 22:00-24:00

7月29日 (月) 13:00-16:00

7月30日 (火) 16:00-18:00

7月31日 (水) 18:00-20:00


なお、第30弾の初回放送は8月1日(木)22時スタート予定。


よろしければ、是非!


2013年7月18日21時18分(HI)

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