CHARLIE BOYER AND THE VOYEURS『Clarietta』(Heavenly)

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「高尚なお芸術など犬にでも食わせてしまえ!」と彼らが言ったかは分からない。何の話かってチャーリー・ボイヤー・アンド・ザ・ヴォイヤーズのデビュー・アルバムのことだ。


 本作はスコットランドの伝説的バンド、オレンジ・ジュースのエドウィン・コリンズがプロデュースしている。大御所がプロデュースしていると聞くとまず「金とコネだろ」と思ってしまう。そういうケースが実に多いのだ。音楽をビジネスとして捉えた場合ある意味当然かもしれない。政治でもあるまいし公正さは要求されない。ましてや理想を追い求めていたら食っていけなくなってしまう。


 だがプロデューサーがエドウィンとなると話は違う。現在に至るまでインディー・ロックに絶大な影響を与え続けているバンド、オレンジ・ジュースの解散後、しばらく彼は不遇期を経験している。それを経てソロで大ヒットした時に山ほど来たプロデュース依頼を、しかし断り続けたという。金はあったほうがいいけど、だからって同じようなヒット狙いなんかできないから。


 前置きが長くなったが、このチャーリー・ボイヤー・アンド・ザ・ヴォイヤーズはUKの名門《Heavenly》からデビュー。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやテレヴィジョンの系譜に連なるアート・パンクとしてUKメディアから絶賛されている。ガーディアンでは「サヴェージズが好きならお勧め」という煽り文句でパーマ・ヴァイオレッツやテンプルズらと共に取り上げられていた。


 NMEで2013年7月現在ストリーミングされているが、聴いた印象はむしろT・レックスやスウェードのような色めかしさ、躍動感を感じる。良い意味でのアホっぽさというか生命力と初期衝動。アート・パンクという言葉から来るインテリっぽさをあえて避けているような。色々知ってはいるけど結局気持ちいいロックンロールがやりたいんだ! というような。エドウィン・コリンズが今春発表した、老成しているのに若々しい活気に満ちた新作『Understated』に通じる雰囲気で、それは決して偶然ではないだろう。いやむしろ影響下にある!


 ダニー・ステッド(ベース)、サム・デイヴィス(ギター)、サミル・エスカンダ(ドラム)、ロス・クリスチャン(キーボード)を率いるフロントマン、チャーリー・ボイヤー(ヴォーカル/ギター)は、昨年まではエレクトリシティー・イン・アワ・ホームズのメンバーとして活動。ポスト・パンクを通過したファンク・サウンドは日本でもFile UnderやBig Loveのような輸入レコード店で猛プッシュされ来日公演も果たしている。09年にはニールズ・チルドレンのベーシストとしても活動。それらを経て彼が新たに結成したのがチャーリー・ボイヤー・アンド・ザ・ヴォイヤーズである。


 よく指摘されるリチャード・ヘルやジョナサン・リッチマンといった先達からの影響や、盟友であるトイやザ・ホラーズとの共鳴を探るのもいい。しかし彼らの良さはむしろ経験を経た末にたどりついた無邪気な愚直さにあるのではないか。先述の2バンドから受け継がれたアート・パンク要素をあえて崩した快楽的なギター・リフや懐かしくもダサいオルガン・フレーズが我々を70年代のイギリスへトリップさせる。そう、彼らが犬に食わせたのは過去の自分達自身かもしれない。



(森豊和)

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