Buffalo Daughter『ReDiscoVer. Best,Re-recordings and Remixes of Buffalo Daughter』(U/M/A/A)

|
バッファロードーター+.jpg

 今年は何かと節目になるアーティストが多いが、シュガー吉永、大野由美子、山本ムーグの三人からなるバッファロー・ドーターも結成から20年目を迎えるという。個人的に、コーネリアスやチボ・マット、シーガル・スクリーミング・キス・ハー・キス・ハーなどを並列に聴きながら、日本内の音楽というものが、そうではない境目を溶解してゆく感覚をおぼえていた90年代後半に、彼らの音に出会ったのを明確に憶えているのもあり、意趣深い。思えば、ビースティー・ボーイズが立ち上げたインディー・レーベル《Grand Royal》とバッファロー・ドーターが契約したときの熱量と共に。《Grand Royal》がフックしたのは良質な音楽だけでなく、ストリート・カルチャーやマガジン・カルチャー、そこに集まった共同体と言おうか、自由に幅を広げていった。


 時代の空気とも合致していたのだろうが、無邪気にかつ水平に多くのものをミックスして、ハイ・センスや知性如何に限らずとも、楽しさと表現の自由を社会にぶつけてゆく時代の香りの芽吹きがそこにはあった。《Mo'Wax》を立ち上げたUKのジェームズ・ラヴェルもそうだが、90年代の半ばからDIY的に国境や言語を越えて、価値観や感性が共有されることで拡がる瀬が確実にあったと思う。今のような同軸上に多様な価値や情報量に膨大なものが逆・適応してしまう状況とはまた違い、輸出されてくる多くの雑誌、フリーペーパー、ZINE、CD、レコードなどが並ぶレコード・ショップの熱気を前にするだけでもその"未知"に胸躍った人も少なくないだろう。


 そこで、98年の彼らのまさしく、『New Rock』というタイトルの作品から聴こえてきた可塑的なサウンド。ニュー・ウェイヴ、アンビエント、ノイエ・ドイチェ・ヴェレ、当時のアセンズ、エレファント6との共振も伺えるリーチの広さは斬新だった。"何でもアリ"なようで、底流に独自の美学やあまたの音楽への敬意が感じられるところも含め、センス的なものだけでは決してない雑食的ながら、アートな佇まいには痺れた。


 一転、02年の『I』は、反復をベースにしながら、しなやかにサウンド・アトモスフィアが拡がってゆく緻密な音像と構成、エレクトロニカ的な要素もありながら、そこに生楽器の融和が美しいバレアリックな作品だった。その後の03年『Pshychic』におけるセッションを重視にしつつも、自己充足に終わらない姿勢など、都度のライヴもそうだが、つねづね、実験と自己への刷新を持って、対峙するバンドであり、こうして活動が続いてきたという轍そのものが頼もしく思える。


 90年代後半のある種の"社交場"として活発だったレーベルやカルチャーが何かと厳しい状態に、それぞれ分派してゆくなか、彼らも次第に独自の道を歩んでゆくことになったのは自明だったといえるが、この20周年記念となる『ReDiscoVer. Best, Re-recordings and Remixes of Buffalo Daughter』は題目から推察できるような、記念的なベスト、アンソロジー、回顧録といったものではない。それには、過去に何度もレーベルを移籍してきた関係で使えない音源があるなど、そういった部分を自分たちやその他のアーティストたちとともに、あくまで今の形でのバッファロー・ドーターをアップデイトしようというものだ。


 新録曲は3曲で、これがまた、面白い。「New Rock」を環ROY&鎮座DOPENESSによるKAKATOの『KARA OK』内の「インザハウス」にてビートジャックしていたものを、今回は正式なコラボレーション曲として冒頭を飾り、いきなり魅了される。続く2曲目の「Beautiful You」は20thヴァージョンとして、日暮愛葉と有島コレスケが参加している。もう1曲は、意外にもレコーディングにおいては初共演となるコーネリアスとの「Great Five Lakes」の20thヴァージョン。旧友ともいえるアーティストや新しい世代との繋ぎ目が鮮やかに巡る。


 なお、リミックス・ワークには、ビースティー・ボーイズのアドロックが担当した遊び心溢れたもの、最近、多くのアーティストのリミックス・ワークを手掛ける大阪在住のトラック・メイカーAvec Avecによる2曲が収められている。もちろん、オリジナル音源からもチョイスされているが、私的に『I』から、「Discotheque Du Paradis」「Volcanic Girl」の2曲が選ばれているのが嬉しい。ライヴ音源も含め、全14曲。時系列も横断しつつ、まったくバラバラながら、ノスタルジックな何かを感じさせず、聴いていて、奔流のようにイメージの束が前景化するのも興味深い。まるで一枚の絵を描くように、音が重ねられる過程、そう、ここには彼らの紆余曲折と果敢な挑戦心に満ちた、長い20年の、あくまで、過程が感じられる気がする。


 長い軌跡を振り返るには、届かないところもあり、ただ、このわずかな14篇のフラグメンツから原基を想起してみるための、エネルギーと全体像への誘惑がある。そして、らしい、粋な試みといえる附属している真っさらな、書き込み可能なCD-Rには個々自在に彼らのこれまでの音を詰め込んでみるなり(ときにこれからを考え、沈黙を録音させておくのもいい)、自分なりの曲リストを作ってみて、過去、現在、未来に尽きぬ想いを馳せるのも一興だと思う。


 彼らからのアイデアに満ちたこの作品は、20年を迎えた自分たちに向けたひとつのけじめのようでトライアルでもあり、多くのファンやアーティストへの感謝の花束とともに、更に進むためのささやかな便りのようなものかもしれない。だから、畏まって受け止めるのではなく、フラットに楽しみ、コンセプトたる「再発見」をたどればいい気がする。



(松浦達)

retweet