一十三十一『Surfbank Social Club』(Billboard Records)

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 去年リリースされ、シティー・ポップの傑作として高い評価を受けた『CITY DIVE』もそうだったが、一十三十一の最新作『Surfbank Social Club』もまた、スタイリッシュなアーバン・サウンドのなかで、映画的なロマンティック・ストーリーが紡がれている。とはいえ、都会の夜をイメージさせる『CITY DIVE』とは違い、本作では"海"の景色が目の前に広がっている。季節でいえば夏が似合う爽やかな空気を運んでくれるアルバムだ。


 そんな本作を、多くの人はシティー・ポップとして聴くのかもしれない。しかし、最近注目を集めている、シティー・ポップと呼ばれる多くのインディー・バンドたちの音楽と本作のあいだには、明確な差異がある。例えばシャムキャッツなどは、死ぬまで終わることがない日常に楽しみや面白さを見いだし、そこで生きようとするタフネスを希望としている節がある。だが本作は、80年代半ばから90年代前半にかけて隆盛を誇った、かつてのトレンディー・ドラマみたいな世界観を鮮やかに描いた非日常的な作品である。その世界観は『CITY DIVE』、続いてリリースされたカヴァー集『YOUR TIME ROUTE 1』を経由することで、より彩度を高めている。おそらく、この世界観にコミットできるかどうかで、本作に対する姿勢が変わってくるはずだ。


 もしかすると、本作の非日常性に、箱庭的な息苦しさを感じる者もいるかもしれない。いまや、夢を見ることすら難しいハードな時代となってしまった。そのなかで、ロック的な物語は賞味期限切れとなり、自分の日常と接続できる親近感を持つ音楽が求められるようになった。それでも物語をあきらめきれない者は、ももいろクローバーZのようなアイドルに熱をあげるのかもしれない。それこそ、「オアシスみたいなロック・ストーリーに熱狂した人たち」である。この熱狂において重要なのは、送り手と受け手のあいだで交わされた共犯関係であり、そこに物語を見いだすことで、連帯感を密なものにしていく。たとえそれが、いずれ終わりがくる幸福だとわかっていても・・・。これはこれでいいと思うが、筆者はどうしても、先が見えている船に乗りこむ気にはなれない。


 だが本作は、そんな筆者の頑さをゆっくり溶かし、その"夢"に身を投じたいとすら思わせてくれる。一十三十一が《もう一度だけその気にさせて》(「LAST FRIDAY NIGHT SUMMER RAIN」)と歌った瞬間、本当にその気になってしまう。もちろん、「ENDLESS SUMMER HOLIDAY」なんてありえないのだが、アルバムを締めくくるこの曲が終わると、ふたたび1曲目の「surfbank social club 1」を聴いてしまう自分がいる。文字通り"ENDLESS"。不思議と飽きないし、何回も聴いてしまう。しかも、非日常から日常に戻る反動によって生じる虚無感がまったくない。なぜだろう?


 これはおそらく、日常と非日常のはざまを行き来する、巧みな言葉選びが光る歌詞ゆえだと思う。ラヴ・ストーリーの体裁を持った歌詞が多く、思わず頬を赤らめてしまう甘い言葉が次々と飛び出してくるが、それが一十三十一によって歌われると、まるで魔法のようにキラキラとしたまばゆい言葉になり、日常と非日常の境界線を曖昧にしていく。


 クニモンド瀧口、Kashif、Dorian、さらにはgrooveman SpotにLUVRAW & BTB、Avec Avecが参加したサウンドも、押し引きの上手さが際立つ秀逸なものだ。ディスコ、ファンク、R&Bなどがスマートに交わる豊穣さも素晴らしい。一十三十一というヴォーカリストを理解したプロダクションも、シンプルかつ的確。


 もしかすると、本作を繰り返し聴いてしまうのは、『Surfbank Social Club』というコンセプトのなかに、玄人な音楽ファンも満足させる高い音楽性と親しみやすいメロディーが込められているからかもしれない。勢い重視のエクセス・ミュージックも面白いが、本作のように、あくまで音楽性というコアを失わずにエンターテイメントする矜持は、もっと多くの人に触れてほしい。



(近藤真弥)

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