CARL CRAIG『Masterpiece』(Ministry Of Sound / Music 4 Your Legs Import)

|
Carl Craig『Masterpiece』.jpeg

 これまでに数多くのミックス作品をリリースしているカール・クレイグ。なかでも、『The Kings Of Techno』における「The European Perspective」は特別なミックスである。名前の通り、アート・オブ・ノイズ、ニッツァー・エブ、リエゾン・ダンジェルーズといった、カールに影響をあたえたヨーロッパ出身のアーティストたちを中心にフィーチャーしながら、YMOやカノなども選曲する幅広さは、カールの豊穣な音楽的背景を示すものだった。カールは、フランシスコ・モラ・キャトレット、クレイグ・テイボーンと組んだインナーゾーン・オーケストラ名義で、フリー・ジャズとテクノを溶解させたアルバム『Programmed』を発表しているが、このアルバムを作るうえで重要な役割を果たした折衷感覚のルーツに触れることができるのも、面白い特徴のひとつだ。


 本作『Masterpiece』は、過去にフランソワ・ケヴォーキアンやアンドリュー・ウェザオールといったDJが登場した人気ミックスCD・シリーズ。3枚組の大ヴォリュームであることも売りのひとつで、フロアでプレイする際のセット・リストを反映させたCD1、カールに影響をあたえたアーティストの楽曲群を収めたCD2、カールの未発表曲を集めたCD3で構成される本作も例外ではない。


 まずCD1では、BPM130以下のトラックを中心としながら、エジプシャン・ラヴァー『Egypt Egypt』といったオールド・スクール・エレクトロも織り交ぜるなど、カールの巧みなプレイ・テクニックと遊び心を堪能できる。わかりやすいメリハリをつけた展開は、コアなクラブ・ファンには少し物足りないように感じられるかもしれないが、そのぶん幅広い層に好まれる可能性を秘めている。随所でダンス・ミュージックの新しい潮流を示しながらも、基本的には万人にアピールするミックスだと言える。その点では、カールのロング・セットで味わえるディープネスが欠けていると言えなくもない。それでも、良質なミックスであることに変わりはなく、このCD1のためだけに本作を手に取る価値はある。


 CD2は、リズム・イズ・リズム「Icon」というテクノ・クラシックを選びつつ、プリンス・ジャミー「256K Ram」、マディ・ウォーターズ「Mannish Boy」など、興味深い曲もピックアップしている。「The European Perspective」と同様、カールのバックボーンを知るうえで最適な1枚だ。自ら主宰するレーベル《Planet E》からリリースした、トライブ「Livin' In A New Day」を混ぜてくるあたりもちゃっかりしていて、高い彩度を持つ選曲は素直に楽しめる。欲を言えば、この多彩さをもっと自身のトラックに反映させてほしいのだが・・・。


 そしてCD3は、先述したようにカールの未発表曲のみで作りあげられた、いわばオリジナル・アルバムと言っても差し支えない内容だ。その内容はというと、エクペリメンタルなドローンを基調としたサウンドスケープが印象的で、踊れる曲を期待している人は肩透かしをくらうと思う。さらに言えば、こうした中途半端な内容になるのであれば、もっと時間をかけて別のアルバムとして発表する道もあったのではないか? カールがやりたいことの断片を覗けるラフなスケッチとしては楽しめるが、ひとつの作品としてはあまりにも雑すぎる。去年カールス・デイヴィス名義でリリースされた「Last Decade EP」を想起させる消化不良な後味は、少々キツい。



(近藤真弥)

retweet