BOARDS OF CANADA『Tomorrow's Harvest』(Warp / Beat)

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 まさかボーズ・オブ・カナダの新作が出るとは思ってもみなかった。2005年の『The Campfire Headphase』から実に8年振りのリリースとなるが、唯一無二だからこそ年月が経ってなお愛されて止まない。


 ゆったりとしたビートで、より壮大なスケールのサウンドに仕上がっている今作は、今までのどのアルバムとも似ていないが、雰囲気としては2006年のEP「Trans Canada Highway」の延長線上にありつつ、ダーク・アンビエント的な一面が重なり、見たことのない不思議な世界が繰り広げられている。


 自然の中に囲まれたような永遠と開放感が、これまで奏でてきた"歌"を否定する。今までは彼らなりの"歌"があったけれど、それが今作ではあまり感じられない。メロディーがないわけではないのだが、それよりも音の重なり合いの方が重視されていて、それこそアンビエントの神髄とも言えるし、既存のイメージにとらわれないエレクトロニカの可能性を示している。


 今、世の中におけるエレクトロニカの存在は縮小し、テクノでもロックでもポップスでも、とにかく歌(ヴォーカル)が氾濫するようになってしまった。彼らの音楽はポピュラリティーに対するアンチテーゼではないだろうか。今のマーケットに一石を投じるならば、彼ら自身の持つ普遍性すら殺すしかなかったのかもしれない。


 それでも美への執着はあり、今作では力強さや生命力さえも一つの美しさではないかと思う。以前多かった声のサンプリングも今回は少なく、言葉を持たない音楽そのもののパワーを強く感じさせられる(中盤の「Palace Posy」での声は鳥肌モノだけれど!)。もちろん高音の心地よさも健在ではあるが、いつもの"不安定な高音"ではなく、しかし浮遊感のあるボーズ・オブ・カナダらしさもなくしてはいない。


 今作は特に、ボーズ・オブ・カナダをどう思っていたか、何に惹かれていたかによって印象が人それぞれ違うだろうけど、"Tomorrow's Harvest"というからには自らの過去にとらわれずこれから先の新たなステージを見据えているのだろう。実りはすぐそこにやってきている。


(吉川裕里子)



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