BLACK JAZZ CONSORTIUM『Codes And Metaphors』(Music 4 Your Legs Import / Soul People Music)

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 90年代初頭のアメリカは、多くの素晴らしいハウス・トラックを生みだしていた。今でこそ、ハウスと聞けばイギリスを思い浮かべる者も多いが、91年にオープンしたロンドンの有名クラブ《Ministry Of Sound》も、オープン当初はシカゴやニューヨークからハウス系のDJ/アーティストを頻繁に招いていたことからもわかるように、90年代初頭のアメリカはダンス・ミュージックのメッカであった。


 しかし時は流れ、その盛りあがりも下火になっていくと、USハウスはスポットライトからどんどん離れていった。しかも、ただでさえトレンドの入れ替わりが激しいダンス・ミュージック界だ。このまま二度とUSハウスが大きな注目を集めることはないのではないか...。そう悲観する者もいただろう。だが、2000年代も終わりに差しかかった頃、新潮流のUSハウスを世界に向けてアピールするDJジャス・エドが人気を集め、シカゴからはアミル・アレクサンダーという新鋭が登場。そしてこの波に便乗してか、あのトッド・テリーが自身のレーベル《Freeze》を復活させるなど、ここ最近のUSハウスは新たな盛りあがりを見せている。


 その新たな盛りあがりの中心にいるアーティストのひとりが、本作『Codes And Metaphors』を上梓した、ブラック・ジャズ・コンソーティアムことフレッドPである。彼のセルフ・レーベル《Soul People Music》から過去にリリースされた『RE:Actions Of Light』『Structure』の‎2枚は、すべて手作りのCD-R媒体で流通し、しかもプレス枚数が極端に少なかったことから、すぐさま完売し廃盤となった(※1)。そのせいもあってフレッドPは、USアンダーグラウンド・ハウス界のカルト・スターとして祭りあげられている節もある。


 とはいえ、そんな周囲の評価や視線に惑わされることなく、フレッドPは黙々と素晴らしいハウス・ミュージックを我々に届けてくれる。それはもちろん本作でも同様だ。本作は3部作としてリリースされた「Codes And Metaphors 1」「Codes And Metaphors 2」「Codes And Metaphors 3」をまとめたコンパイル・アルバムだが、スピリチュアルなアンビエンスが漂う甘美な音像は多くの人に味わってほしいし、そのためにも比較的手に入りやすい本作をキッカケとするのも悪くはない。


 これまでフレッドPのことを熱心に追いかけてきた者は、繊細な音像と温もりのあるキックが心地よい「Melody Off Key」を気に入るかもしれないが、筆者としてはデトロイト・テクノに通じるシンセ・ワークをまとった「Tokyo Electric」、それから《Panorama Bar》的ディープ・ハウスにアシッド・ハウスを接続した「Be And Not Know」などに顕著な撹拌的感覚に注目したい。というのも、この撹拌的感覚に基づいたフレッドPの音楽性には、2010年代以降のインディー・ダンスの旗手としてライヴ・ハウスからダンス・フロアまで賑わせた《100% Silk》以降の流れがあり、さらには《Software》や《L.I.E.S.》あたりと類似する感性も見いだせるからだ。ネット以降に注目されたアーティストのほとんどが単一タグでは括れない溶解的サウンドを鳴らしているように、フレッドPもまた、あらゆる時代の音楽や文化にアクセスできる現在の恩恵を受けているアーティストなのだろう。そういった意味で本作は、"USハウスの良盤"といった狭隘な括りではなく、音楽の在り方と聴き方が大きく変化した現況に少なからず影響を受けたモダン・ミュージックとして幅広い層から支持されてもおかしくない。



(近藤真弥)




※1 : 『Structure』は《P-Vine》によって日本盤のみのリイシューがおこなわれている。

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