溶けない名前「おやすみA感覚e.p.」(Self Released)

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 うらたにうらん(ヴォーカル/キーボード)、イトウリュウタ(ヴォーカル/ギター)、ソガベナオキ(ベース)、ニワキヨシ(ドラム)、おやすみAちゃん(イメージ/モデル)による溶けない名前を知ったのは、バンドキャンプでダウンロードできるデモ音源がキッカケだった。物悲しい目つきをしたおやすみAちゃんが印象的なジャケットはもちろんのこと、「刺したい」「ソーダ室へ行こうよ」というアンニュイな雰囲気を感じさせる曲名にも惹かれた。"歌謡シューゲイザーバンド"を自称することからもわかるように、溶けない名前の音楽性はノイジーなギター・サウンドを基調としている。そこにイノセンスをまとったメロディーが乗り、聴き手の心に深く突き刺さる繊細な歌声が言葉を紡いでいく。


 それはファーストEP「おやすみA感覚e.p.」にも変わらず核としてあり、しかもさらなる発展を遂げている。本作は、「ロボットと詩集」「ヰタ・マキニカリス」の2曲に、先述のデモ音源の再録を加えた計4曲となっているが、そのなかでも稲垣足穂による短編集の名前から引用した「ヰタ・マキニカリス」は、溶けない名前らしいタイトルだと思う。稲垣足穂といえば、独自の性愛論やエロティシズムを展開したことで知られている人物。読み進めていくうちに、ジェンダーの境界線が曖昧になっていくような世界観を打ち出した著作群は、今でも魅惑的な雰囲気を放っている。実を言うと、溶けない名前の歌にも、そんな稲垣足穂に通じる世界観がある。うらたにうらんとイトウリュウタの歌声は、共に男女の枠組みを越えた中性的響きを持っているが、この響きに身を任せていると、徐々に目の前の日常がねじれ、常識として定義されていたはずの価値観が転覆するような錯覚に襲われる。


 また、「ロボットと詩集」は、漫画家の業田良家による『新・自虐の詩 ロボット小雪』や『機械仕掛けの愛』を想起させる歌詞が面白い。業田良家のように直接的な社会批判を主張しているわけではないが、ロボットという存在を通じて人間の機微的感情があらわになっていくさまは、いま挙げた作品群と類似するのではないか。とはいえ、感動的な部分もある『新・自虐の詩 ロボット小雪』『機械仕掛けの愛』とは違い、《いいわ許してあげる 仲直りの握手しましょ あーあ、つぶれちゃったね》と儚く歌われて幕を閉じる「ロボットと詩集」は、異なる存在が交わることの難しさを表現しているように聞こえる。特に《つぶれちゃったね》のインパクトは凄まじい。思わず、骨が粉々に砕けた人間の手を思い浮かべてしまった。そういった意味では、一種のグロさを感じさせる曲でもある。このグロさの根源が本作で明らかにされることはないが、このまま順調に活動を続けていけば、その根源を見ることができるかもしれない。次作を楽しみに待ちたいと思う。



(近藤真弥)




【編集部注】「おやすみA感覚e.p.」はライヴ会場とディスクユニオンで販売しています。

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