THE POSTAL SERVICE『Give Up(10th Anniversary Edition)』(SUB POP / Traffic)

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 2013年初頭、1月下旬に突如、ザ・ポスタル・サーヴィスが活動を再開することを発表した。オフィシャル・ホームページは当初こそ、「THE POSTAL SERVICE 2013」とデカデカとロゴと2013年とだけが表記されていたが、すぐに展開が始まり、公式に活動再開をアナウンスすると同時に、米コーチェラや西プリマヴェーラ・サウンドなどの大型フェスに出演すること、米国中をまわるツアーに出ることもアナウンスした。それだけでなく、彼らが2003年に、唯一残していたオリジナル・アルバム『Give Up』の10周年記念盤をリリースすることも発表すると、にわかに、ポスタル・サーヴィス周辺は騒がしくなっていった。


 10周年記念盤として、改めてリリースされた『Give Up』はオリジナル・ヴァージョンの10曲に加えて、新曲2曲、これまで2003年から2005年にかけてリリースされていた「Such Great Heights」「The District Sleeps Alone Tonight」「We Will Become Silhouettes」という3枚のシングルのB面曲、スタイロフォームなどのアーティストによるリミックス、ベン・ギバードによる「Recycled Air」の弾き語りヴァージョン、ザ・シンズとアイアン&ワインという《SUB POP》レーベルでの盟友のカヴァーを収録している。10周年記念盤と言えど、リミックス曲やザ・シンズ、アイアン&ワインによるカヴァーも実はそれぞれB面曲としてシングルに収録されていたので、実質的な未発表のテイクは少ないものの、これからポスタル・サーヴィスを聴き始める入門リスナーにとっては良い入り口として機能するだろうし、今までおよそ10年間、ポスタル・サーヴィスを愛聴してきたリスナーにとっても新曲は聴き逃せないだろう。何より、ポスタル・サーヴィスの、復刻版と言えど10年振りにリリースされるアルバムは1人のファンとしても嬉しいものだ。


 この、ディンテルことジミー・タンボレロの打ち出す、あどけなく無邪気な電子音とベンの紡ぐ美メロ、そして美声に彩られた『Give Up』は、ムック誌『Cookie Scene Essential Guide POP&ALTERNATIVE '00s 21世紀ロックへの招待』でも書かせていただいたとおり間違いなく、インディー・ロック×エレクトロニカ=インディートロニカの金字塔的作品の一つであるのだから。


 往時のポスタル・サーヴィスのインタビューで、ベンは「(ポスタル・サーヴィスとしてのリリックは(当時の)デス・キャブ・フォー・キューティーのものと比べて)よりプライベートにそっている」と答えていた。なるほど、たしかにオリジナル・アルバムを改めて聴き返しても、「The District Sleeps Alone Tonight」などは、ベンの当時のガールフレンドがワシントンD.C.に移ったことを受けて書かれていたり、「This Place Is A Prison」などの歌詞はカスケード山脈やピュージェット湾などシアトルの地名が出てきたりして、より彼のプライベートの景色から紡がれた言葉がのせられていることが伝わってくる。


 そこで、デス・キャブ・フォー・キューティーとして彼が一昨年にリリースした現時点での最新のオリジナル・アルバム『Codes&Keys』を考えてみると良いかも知れない。『Codes&Keys』も、また(『Cookie Scene Essential Guide POP&ALTERNATIVE 2011 21世紀ロックの爆発』に書かせていただいたように)時に、深淵を覗き込んでいるかのようなサウンドに合わせて、それまでよりもいっそう、ベンのプライベートの心境によった歌詞が綴られていた。そこで新曲として収録された「Turn Around」および「A Tattered Line Of String」を聴いてみると、その『Codes&Keys』を通過した後の、2003年のそれよりも圧倒的に深く厚いサウンドとともに、美メロで口ずさまれるベンの歌詞は、イノセンスを保ちきれなかったことを示しているかのようで面白い。


 昨今の彼のプライベートで最も大きな出来事と言えば、シー&ヒムとしても活動している女優、ゾーイー・デシャネルとの別居、そして離婚が挙げられる。もちろん、それが彼の曲に影響を与えたと断ずるのは早計にすぎるが、一つのコンセプトとして、よりプライベートの心境によった歌詞を綴ることを挙げていたポスタル・サーヴィスでの活動において、それが何らかの形で表れているのではないかと考えてしまうのも事実ではある。それゆえに、無邪気なポップセンスの上で跳ね回るエレクトロニカのエッセンスはそのまま、より厚くなった音の数とベンのヴォーカルに彩られる新曲2曲はそれほど意外ではないものと言えるだろう。


 また、収録されたB面曲、ザ・フレーミング・リップスのカヴァー「Suddenly Everything Has Changed」などは、(シングル「The District Sleeps Alone Tonight」に収録されたオリジナル・ヴァージョンとは)イントロの入りが違う別テイクのものが採用されており、こちらも、オリジナル・ヴァージョンよりも出だしから、奥深い憂愁の中を探索するかのようなアレンジになっていることも微小な差異ではあるが注目したい。


 そして、未発表として収録された、「Recycled Air」のベンによる弾き語りヴァージョンは、シアトルの名ラジオ局、KEXPにて収録されたものである。多くの地元アーティスト、例えば、ザ・ポウジーズなどが『Blood/Candy』の新曲を当初、披露していたのもKEXPであり、サーファー・ブラッドなどの地方のインディー・ロック・バンドがシアトルに来た時はスタジオ・ライブも敢行されるKEXPにおいて、改めて、ポスタル・サーヴィスの曲がプレイされたのは感慨深い(なお、僕は2010年にシアトルの名門ヴェニュー、クロコダイル・カフェにて行われたベンのソロの弾き語りライヴでデス・キャブ・フォー・キューティーの曲と同時に、ポスタル・サーヴィスの曲を聴くことに恵まれていた。ただし、その際はデス・キャブ・フォー・キューティーとしてのニュー・リリースを控えていたこともあってか、ポスタル・サーヴィスが活動を再開するという素振りはほぼ一切見られなかったと言って良かった)。


 ポスタル・サーヴィスはおよそ10年の時を経て、戻ってきた。10周年記念盤としてリリースされた『Give Up』はこれまでの彼らの総決算であると同時に、収録された新曲も含め「今の」ベンの心境が表出しているように感じる。それは、たしかに、10年前の彼らのような弾けるポップ・センスよりも「深い」ものになってはいるが、ベンがイノセンスを讃えた電子音を再び身にまとうことで、より吐き出せるようになった結果とも取れるのではないだろうか。



(青野圭祐)

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