SAVAGES『Silence Yourself』(Pop Noire / Matador / Hostess)

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 正直、ジェニー・ベス(ヴォーカル)、ジェマ・トンプソン(ギター)、エイス・ハッサン(ベース)、フェイ・ミルトン(ドラム)による女性4人組バンド、サヴェージズが日本で受けいれられるのかわからない。


 ザ・キュアーやデペッシュ・モードなど、サヴェージズのようにダークな雰囲気を醸しだすバンドが日本でも評価されている例はあるものの、いま挙げたバンドたちのサウンドではなく、ルックスだけを引用したバンドが日本では多く見られるからだ。そこから派生し発展した、いわゆるV系と呼ばれるバンドのなかにも好きなバンドはいるし、ファッション面でいえばゴスロリなども、嫌いではない。


 だが不思議と日本では、ニュー・ウェイヴに出自を持つダークなバンドがなかなかウケない。先程のデペッシュ・モードにしても、欧米ではスタジアム・クラスのバンドとして認知されているが、日本ではマニアックなバンドという印象を持たれている。だからこそ、サヴェージズが日本の音楽ファンに親しまれるのか心配になってしまうのです。だって彼女たちの音、すげえカッコいいんだもの。


 イギリス出身のせいなのか、彼女たちを語るうえで引きあいに出されることが多いのはジョイ・ディヴィジョンである。その気持ちもわからなくはない。エイスが単一のベース・ラインをひたすら弾きたおし、そこに乾いた音を鳴らすフェイのドラムが交わることで生まれるトランシーなグルーヴは、ジョイ・ディヴィジョンを想起させるものだ。しかし、激しく鳴らされるジェマのノイジーなギターは、抑制美を抱かせるジョイ・ディヴィジョンのギター・サウンドとは似ても似つかない音だし、呪術的かつ情念的なジェニーのヴォーカルも、よく言われるようにスージー・スーを思い出させる。彼女たちに"女版ジョイ・ディヴィジョン"のレッテルを貼る者は、デビュー・アルバム『Silence Yourself』に潜む高い音楽的彩度を見逃しているのだろう。


 とはいえ、ここまで書いてきたことから、彼女たちは70年代末~80年代前半当時のポスト・パンクをそのまま演っているのではないか? そう思う人もいるかもしれない。だがそれは違う。確かに彼女たちの音楽には、先述のジョイ・ディヴィジョンをはじめ、バウハウス、マガジン、スージー・アンド・ザ・バンシーズといったバンドの要素がちらついている。しかし、これらのバンドから現在においても通用する要素を抽出し、それを混ぜあわせ血肉とする感性はモダンなものだと言える。


 さらに本作のサウンドに注意深く耳を傾けると、ガレージ・ロックやサイコビリーの要素も紛れこんでいるのがわかる。この点も、彼女たちがポスト・パンクだけに影響を受けているバンドではないことの証左となっている。


 このような音楽を生みだすセンスは、強いて挙げればザ・ホラーズのセンスと類似している。そう考えると、次作ではがらりと音楽性を変えた作品を提示してくるかもしれないし、本作を聴くかぎり、それを可能にする引きだしも数多く持っている。トレンドに擦りもしないサウンドを提示してくるあたりも、ジェニーのカリスマ性と相まって異端的存在感を聴き手に抱かせる。


 また、ジャケットのアートワークで使われている文章にも注目してもらいたい。「Shut Up」のMVの冒頭でもスポークン・ワーズとして披露されているこの文章からは、「服従は沈黙です。服従は答えてくれません。服従は抑制された状態です」(※1)という言葉を残したアーシュラ・K・ル=グウィンに通じる力強さがある。


 彼女たちがル=グウィンと同様にフェミニストであるかは不明だが、ジェニーの男性的なルックス(初めて見たときは男だと勘違いしてしまいました)は、女性的な感覚の中にある男性的な部分を発露し、それが結果として、どちらにも属さない中性的かつ孤高のアイデンティティーに結実した迫力を発している。


 なので、"こういう音なら昔◯◯がやっていたよね"みたいなことを言いだしそうな干からびたおじさんおばさんなんか無視して、順調に活動を続けてほしいと願うばかりでございます。



(近藤真弥)



※1 : アーシュラ・K・ル=グウィン著『世界の果てでダンス』収録「ブリン・モー大学卒業講演」より引用。

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