RP BOO『Legacy』(Planet Mu / melting bot)

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RP BOO『Legacy』.jpgのサムネール画像

 こいつは凄い。最初の音が鳴った瞬間、興奮と緊張が入りまじった不思議な感覚に襲われる。これがおそらく、よく言われる"ヤバイ"というものなんだろうけど、ジューク/フットワーク・シーンの重要人物RPブーのアルバム『Legacy』は、その"ヤバイ"匂いを発している。


 RPブーは、フットワーク・スタイルを明確に固めたトラック「Baby Come On」を生みだし、「Off Da Hook」といったアンセムも残すなど、トラックスマンと比肩する絶大なリスペクトを集めるレジェンド、みたいな背景を押さえたうえで本作を手に取るのも悪くはない。


 しかし本作には、ジューク/フットワークについて何も知らない者が聴いたとしても、シンコペーションを多用したリズムとヴォイス・サンプリングによって生じる奇怪なグルーヴに触れるだけで、聴き手を虜にする魔力がある。言ってしまえば本作は、ジューク/フットワーク云々というところからとてつもなく飛躍した狂気的かつ未知なビートを宿し、そんなビートを平然と鳴らしてみせるRPブーはマジ狂ってる。


 筆者からすると、3分以上のジューク/フットワーク・トラックは長すぎると感じることもあるが、RPブーは尺など関係なくトラックに十分な破壊力を宿し、さらにはクラウトロックに通じる反復の美学も難なく取りこんでしまう。全曲合計約65分の本作に収められたトラックはすべて3分を超えているが、それでも退屈することなくあっという間に聴き終えてしまうのは、音の抜き差しによって曲を組みたてるミニマル・テクノ的手法で、ラフな質感のサウンドを上手く扱っているからだ。その結果、『Strange Weather, Isn't It ?』以降の!!!が強く打ちだす粘着質な酩酊感と類似するグルーヴを獲得している。


 この方法論を如実に反映させたのが、3曲目の「Red Hot」。最初は少ない音数で進行していくこのトラックは、1分10秒あたりからクラップが入ると、そのテンションが徐々に沸点へと向かっていく。そして、1分50秒を過ぎたころに鳴らされるホーン・サンプリングがキッカケとなり怒濤の展開になだれ込んでいくのだが、それゆえ生じるダイナミズムが荒々しくもあり、同時にディープな色気を漂わせているのだから、素晴らしいとしかいいようがない。こうしたトラックを多数収めた本作がリリースされてしまった今、この先も生まれるであろう数多くのジューク/フットワーク・トラックは、とてつもなく高いハードルと比べられることになるのかもしれない。


 そういった意味で、RPブーはまたひとつ、世界中のトラックメイカーに厄介な挑戦状を突きつけたと言える。



(近藤真弥)


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