RADIO SLAVE『Balance 023』(Music 4 Your Legs / Balance)

|
Radio Slave.jpg

 DJという存在は、編集的手法を駆使することで、新たな解釈や文脈をあたえる創造者である。過去の音楽にまとわりついた価値観を塗りかえ、聴き手の固定観念や先入観を取り払い、新しい視点を示してくれる。


 もちろん、その場だけの雰囲気を作りあげることもDJの役割だし、立派な創造的行為だ。しかし、常に音楽の可能性を追求しているDJは、雰囲気を作りあげつつ、実験精神に基づいたチャレンジングな姿勢を忘れない。踊り狂う人々の予想を、期待を、感性を良い意味で裏切り続けながら、次々と曲をスピンしていく。こうした駆け引き上手なDJによるミックスは、プレイに身を委ねる心地よさを生みだしながらも、聴いていてヒリヒリとする先鋭性を突きだしてくる。これは文字通り、スリルに満ちた"飴と鞭"といったところだが、これがDJプレイを楽しむ際の醍醐味だし、だからこそ、マジカルな空間を求め、今でもパーティーに足を運びつづける。


 レディオ・スレイヴことマット・エドワーズは、そんなマジカルな空間を作りだせるDJであり、同時に数多くのオリジナル・トラックを生みだすことで、テック・ハウス・シーンを牽引してきた。さらにジョエル・マーティンとのクワイエット・ヴィレッジでは、レゲエ、ソフト・ロック、AORといったさまざまな音楽をサンプリングし、チルなサイケデリアを醸しだしていたりと、その豊富な音楽的引きだしは多くの人に認められているが、それはマットの最新ミックスCD『Balance 023』でも堪能できる。


 本作はダンサブルなCD1と、ディープかつチルアウトなCD2の2枚組となっているが、特に聴いてほしいのはCD2だ。初っ端から坂本龍一「Only Love Can Conquer Hate」が聞こえてくるCD2は、ヴィンセント・I・ワトソン「Hidden Behind The Eyes」、ポルティコ・クァルテット「Laker Boo」などの新しめなトラックがある一方で、ハービー・ハンコック「Nobu」、フレンチ・ディスコ・クラシックのリンダ・ロウ「All The Night」といったオールド・スクール・トラックを織りまぜることで、あらゆる時代を奔放に行き来するマットの横断性が際立っている。ジャンル的にもダウンテンポ、ハウス、ヒップホップ、ディスコ、ジャズなどを巧みに溶解させ、それゆえ生じる甘美なアトモスフィアで聴き手を包んでくれる。


 また、DJとしてのテクニックが光るCD1と比べ、CD2は選曲のセンスがより剥きだしになっているのも素晴らしい。ビートを繋げていくのがCD1だとしたら、曲が持つ空気を馴染ませながら紡いでいくのがCD2とでも言おうか、その紡がれ方があまりに流麗なもんだから、適温の海に身を投げだしたような陶酔感に襲われる。


 そして、本作を必聴の域に押しあげている重要な要素が、マットの音楽に対する寛容な姿勢だ。この姿勢は、それぞれ異なる背景を持つ者たちが、ひとつのフロアに集まり踊るというクラブ・カルチャーの懐の深さを聴き手に見せてくれる。もちろん人には好き嫌いがあり、すべての人を受けいれろと言われても無理なのは承知。しかし、せめて自分とは違う他者の存在を認め、そのうえで共存していくことはできるかもしれない。強引に他者と交流させる必要はないが、いつでも他者と交流できる環境はあってもいいのではないか? そうした考えをクラブ・カルチャーは一側面として孕んでいるが、そんな一側面をマット・エドワーズは本作において表現しているように聞こえる。そういった意味で本作は、クラブ・カルチャーが持つ最良な部分を教えてくれる作品だと言える。



(近藤真弥)

retweet