印象派「Nietzsche」(eninal)

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印象派「Nietzsche」.JPG

 2011年に「HIGH VISION/ENDLESS SWIMMER」をリリースし、2012年は「SWAP」と、サウンドクラウドやバンドキャンプで矢継ぎ早に発表されることが当たりまえになりつつある現在にあって、何ともゆったりとしたペースで活動を続けている印象派。「SWAP」リリース後は、ハンサムケンヤが主催するイベント《RadioHandsome NIGHT !》に出演するなど、ライヴもいくつかこなしていたそうだが、作品の制作に関するニュースはほぼ皆無。らしいと言えばらしいが、そろそろ新たな作品を出してもいいんじゃない? と思っていたところに突如届けられたのが、印象派にとっては初の1stミニ・アルバム「Nietzsche」である。


 これまでも彼女たちは、確信犯的に聴き手の想像力を掻きたてるような姿勢を時折見せてきたが、今度は「Nietzsche(ニーチェ)」ときた。ニーチェといえば、哲学者として知られているのはもちろんのこと、随所にアフォリズムを使用するその文体も高い文学的価値を得ている。確かに本作の歌詞は散文的手法を巧みに取りいれたものが多いし、断続的に言葉が紡がれる「[Nietzsche's] HEAT BEAT」は、モラリストの要素も見え隠れする。


 「[Nietzsche's] HEAT BEAT」には聴き手の考察心をくすぐる小ネタも多くあり、例えば《ナイフとフォーク 豆腐店と峠超えのコラボレーション》という一節は、おそらく漫画『トリコ』と『頭文字D』のことではないか? "ナイフ"と"フォーク"は、『トリコ』の主人公トリコが持つ技の名前で、『頭文字D』の主人公である藤原拓海は、親が経営する藤原とうふ店で働きながら、峠を舞台にレースをする走り屋の青年。車つながりでいえば、同曲に登場する《ケン&メリー》は、日産スカイラインのCMに使われたBUZZの「ケンとメリー ~愛と風のように~」という曲を指している、かもしれない。《はっぱしようよ》なんてのも登場するが、筆者からするとどうしてもマリファナを想像してしまう。こうして考えてみると、本作に収められた「SWAP」以上に、「[Nietzsche's] HEAT BEAT」はストレートかつ毒のある曲だと思う。さらに「OUT」では、グーグルマップのルート検索で出た経路案内らしきものを早口で読みあげたりと、本作の歌詞は奔放な遊び心を発揮したものが多い


 サウンド的には、ザ・ラプチャーLCDサウンドシステムといった、いわゆる初期《DFA》を思わせるディスコ・パンクにニュー・レイヴ(懐かしいね!)、そこにジャーマン・エレクトロや80年代ニュー・ウェイヴをふりかけ、これらの要素をキャッチーにまとめるポップ・センスが光る。他にもラウドなギター・リフでグイグイ引っぱっていく「HIGH VISION [VersionB]」は、どことなくレッド・ツェッペリンの匂いを醸し出し、「OUT」のトランシーなサイケデリアはボアダムス『VISION CREATION NEWSUN』を想起させるなど、引きだしはたくさんありそう。


 90年代の音楽から影響を受けたサウンドが多く見られる現在において、2000年代前半の音楽的要素を素直に反映させているのは興味深い。もしかすると、2000年代の音楽も"過去"として参照されるものになりつつあるのだろうか? ウルトラデーモンの『Seapunk』もそうだが、本作もまた、過去/現在/未来が混沌とフラットに共立する"今"に通じるセンスを含んでいる。



(近藤真弥)


【編集部注】「Nietzsche」は6月19日リリース予定。

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