ULTRADEMON『Seapunk』(Fire For Effect / Rephlex)

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 ここ1~2年のあいだでよく見かけるようになった"シーパンク"というジャンルだが、特定の音楽を指す言葉ではなく、ファッションなども含めたムーヴメントを表す総称のように思える。


 音楽的にはレイヴ・ミュージックのハイな部分を抽出し、それを土台にダブステップやLAビート・ミュージック、それから80年代のオールド・スクール・エレクトロといった要素をぶちこんだような印象を受ける。そういえば、友人が「Seihoの『MERCURY』はシーパンク」と言っていたが、筆者からするとシーパンクは、ラスティーハドソン・モホークからの影響を多分に含んでいるように聞こえる。異論はあるかもしれないが、筆者がシーパンクを聴いて真っ先に思い浮かべたのは、いま挙げたふたりのアーティストである。


 ヴィジュアル面では初期《Transonic》のコンピレーション・アルバムのジャケット(これこれなど)を想起させるデザインが多く、いわゆる90年代的なセンスを醸しだしている。あえてチープさを強調したCGからは、そのチープさを面白がっている節も見受けられるが、秀逸なデザインになるとそれがスタイリッシュに見えるのだからびっくり仰天。古いか新しいかではなく、面白いか面白くないかという判断基準を重視するポスト・インターネット世代が中心のムーヴメントだからこそ為せる業なのだろう。


 ここまで書いてきたことから推察すれば、シーパンクは音楽的にもヴィジュアル的にもあらゆる要素や文化を折衷させることが前提としてある。これと類似する前提を持っていたムーヴメントといえば、90年代末期から2000年代始めに隆盛を極めたエレクトロクラッシュを思いださせるが、エレクトロクラッシュは意識的にファッション性を打ちだし、その結果として、フォトグラファーや俳優までをもサポート・メンバーに迎えたフィッシャースプーナーのような集団が現れたりもした。こうした流れは、音楽ジャーナリストのポール・モーリーをスポークスマンとしてメンバーに迎えいれたアート・オブ・ノイズにまで遡れるかもしれない。


 しかし、時代の流れや状況に促される形で発生した側面もあるシーパンクと意識的だったエレクトロクラッシュを接続し、そこからアート・オブ・ノイズにまで遡るのは少々無理がある。意識的だったエレクトロクラッシュと、環境に規定された無意識をベースとするシーパンクは断絶しているのでないか? 無意識と意識的の差はかなりデカイと思うし、無意識がゆえの偶発性を持ち、それが従来の文脈や歴史からの逸脱に繋がっているのがシーパンクの面白いところだ。


 その逸脱に寄与した重要な要素がネットであるということに異論はないと思う。事実、シーパンクの多くは、サウンドクラウドやバンドキャンプといったデジタル・リリースが主流だ。だがついに、初のオフィシャルCDがリリースされた。それが本作である。


 本作を作りあげたのは、ウルトラデーモンことアルバート・レッドワイン。シーパンクの第一人者とされていて、過去にはなんとジョセフィーヌ・コレクティヴというバンドのキーボーディストとして《Warner》と契約していたそうだ。しかしわずか18歳で独立し、ファイアー・フォー・エフェクト名義を経て、現在のウルトラデーモンに改名してからは、シーパンクのイメージやサウンドを形作り今に至っている。


 そのアルバートが上梓した本作は、様々な音楽的要素が入り乱れたものとなっている。1曲目の「Chatroom With Enya」は、TR-808風のドラムが淡々と4つ打ちを刻み、それこそ、初期のティガを想起させるエレクトロクラッシュ風味に仕上がっている。さらには『Epiphanie』期のパラ・ワンに近い雰囲気を漂わせる曲もあり、他にもベース・ミュージック、スクリュー、トラップといった要素も取りこむなど、2000年代以降に登場した音楽を網羅的に吸収したようなサウンドが本作の特徴となっている。言ってしまえば、圧倒的なオリジナリティーを聴き手に刻みこむような作品ではない。


 だからといって、音楽的につまらないとするのは早計だ。そもそも過去の音楽を現在の価値観に沿って解釈すること自体は価値ある行為だし、その行為を通して多様な音楽的要素を折衷させ、それをフレッシュに響かせる才能を持つアルバートはもっと評価されてもいいアーティストだ。さらに言えば、そんなアルバートの才能こそが本作の醍醐味である。


 そう考えると本作は、アティチュードとしてのシーパンクを提示した作品であり、もっと言えば、シーパンクはアティチュードであるというアルバートの主張なのかもしれない。だとすれば、本作の寛容性あふれる雰囲気と奔放な音楽性にも納得がいく。それこそゴルジェのように、自分なりの解釈で多くの人がコミットできるムーヴメントなのだろう。実際シーパンクの周辺では、DSTVVのレヴューでも触れたザイン・カーティスの名を目にすることもある。そういった意味でシーパンクは、ネット以降の状況における新たな文化創造とコミュニティー形成のメカニズムを上手く生かした好例としても興味深い。



(近藤真弥)

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