The Selection of DE DE MOUSE Favorites performed by 六弦倶楽部 with Farah a.k.a. RF『Vol.1』《not》

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 デデマウスの昨年の新作『sky was dark』は自主レーベル《not》からリリースされ、多くの反響を呼んだ。そのレーベルからの第二弾は、変化球と言おうか、この今作である。RFについて説明しておくに、ギタリストの成川正憲氏が率いる六弦倶楽部と、元・レコードショップのバイヤーにしてDJ /コンポーザーのFarahのユニットである。DJが所属することで、ヒップホップ、ジャジー・ソウル、サンプリングの素材性を活かしつつ、生演奏での間合いと巧みな流れが作られる。そのRFと、デデマウス自身の影響の受けた楽曲群を彼らが演奏をしながら、初プロデュースしたというのが今作の内容で、"MIX CD"と呼ぶにしても、特殊な性質のものになっていると思う。


 1曲目は、プレフューズ73が01年にリリースした『Vocal Studies + Uprock Narratives』から、「Radio Attack」。当時のプレフューズ73ことスコット・ヘレンといえば、いわゆる、ボーカル・チョップという技法を巧みに使い、膨大な情報量をカット・アップしてみせる気鋭にして、ポテンシャルの見えない不気味さもあった。今でこそ、ラップのサンプリング、再構築の上で、切り刻むボーカル・チョップという手法は当たり前になったといえるが、そのときには斬新な前衛性と快楽性を止揚する何かが内在していた。無論、《Warp》系譜にして、エイフェックス・ツイン、スクエアプッシャーなどの血を受け継ぎながら。


 そんな原曲に対して、いきなりメンバー間の放送禁止用語の英語と楽しい談話から静かに演奏が始められる。RFの演奏に、電子音が混ざりあうことで、オマージュというよりも、現時点での新たな再解釈として、例えば、ザ・ルーツは有名だが、クラウンシティー・ロッカーズ、生音でオーガニックなヒップホップを紡ぐグループ、イタリアのスキーマ・レーベルに通底し、築きあげたスムースな温度への近接も感じられる。他方、日本ならば、Special OthersやNabowa辺りの音そのもので魅せるバンドの持つ空気感を想い出してもいいかもしれない。つまり、本作では選曲や原曲との差異を楽しむ、そういうものではなく、デデマウスとRFが組み、テクノ・クラシックから自身の曲までを緩やかに紡ぎ直そうという、そういう試行であり、ポップ・ミュージックを巡る贅沢な遊びをなぞる。


 YMO「Tong Poo」、ダフト・パンク「Revolution 909」、ジェフ・ミルズ「The Bells」という前半の流れもまさしく彼の音楽をよく知っている人ならば、納得の選曲になっているだろうが、そこにガット・ギター、ベース、ドラム、煌めいた電子音などが入り、化学反応と言おうか、緩やかな余地を残す。テクノ・クラシックと呼べる曲でも、なんらかのそういった、いとまがあるのも今作の特徴で、対話や瞬間の雑談も入ってきたり、つまり、弛緩内に緊張が内包されている。それも入れ子構造のように、緊張的でスリリングな演奏が、ときにそういった弛緩を喰い合うように、特殊な性質と称した語義と矛盾はなく、不思議とMIX CDの名が相応しい、そんな繋ぎの絶妙さも確かにある。


 6曲目のジャズ・スタンダード「My Favorite Things」では、成川氏のギターだけが雄弁に響く。MVでも公開された8曲目の「Squarepusher Theme」では、本作の裏テーマといえる、エレクトロニック・ミュージックでの生音のバンドによる咀嚼の方法論が浮かぶ。


 そして、プロデューサー名義たる彼の最新作からも「Floats & Falls」が選ばれているが、多摩センター用エディションとも違い、生演奏による黄昏とレイドバックの中にあのカット・アップされたサンプリング・ヴォイスが撥ね、曲元来の輪郭は残しながら、柔らかに融解してゆく。デデマウスが追求してきた音風景は或る意味で、『sky was dark』で完成形とまではいかないが、ひとつの到達点を迎えた節がある。郊外をテーマにした音絵巻、ブックレットの添付された物語とともに、コンセプトは極められ、その後のライヴ・ツアーにおける再像化とともに、よりダイレクトに映像と組み合わせたフィジカルで美意識の貫かれたパフォーマンスは鮮やかだった。


 そういった面で、急速に周囲からの求心性は高まりつつある中、本作のプロジェクトでは、自身もそこに参加しながらも、外部から、ときに自己対象性も無いまま、その場での音の中で気ままに戯れるように己の原点を確認しながらも、音楽そのものの楽しみをもう一度見出そうとしている。だからこそ、ジブリが好きな彼が『ハウルの動く城』から久石譲氏の「人生のメリーゴーランド」をピックしているのも"らしい"といえる。


 もしも、デデマウスを知っていた人やこれから知る人がこの作品に出会うことは、彼の来し方を想えるということでもあり、同時に、音楽とはステレオタイプや、決まった鋳型はない、そういう自由を感じさせてくれることだろう。有機的で贅沢な音の漣が空気を揺らし、じわじわと「音楽」を形成する、その過程からダイナミクス、それを体感できると思う。



(松浦達)

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