SLAVA『Raw Solutions』(Software)

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 数えきれないほどの要素を交配したハイブリッド・ミュージックは、筆者がこのレヴューを書いているあいだにも数多く生まれている。そんな現状において、無理に単一タグで括ろうとするのは、もはやナンセンスなのかもしれない。


 いまや、メディアが新しい音楽に適当なジャンル名をつけ、先頭に立って扇動していくのは不可能に近い行為となってしまった。サウンドクラウドやバンドキャンプで音源を漁っていればわかるように、今はアーティスト自身がジャンルを決め、複数のタグをつけるようになった。それはおそらく、ひとつのジャンル名だけでは自身の音楽を説明できないからだ。しかし筆者からすれば、それでも説明できていないし、言ってしまえば、説明する必要もないと思っている。多くの評論家やレコード・ショップは困るかもしれないが、ジャンルという記号から音楽がするりと抜けだしていく様は、見ていて痛快な気分にさせられる。


 こうした音楽のひとり歩きは、間違いなく音楽文化を面白くしているし、新しい価値観と視点を孕んでいるという点では、音楽の在り方を更新したとも言える。筆者はそんな"今"を心の底から楽しんでいるが、本作『Raw Solutions』を上梓したスラヴァもまた、"今"を楽しんでいるようだ。過去にシカゴ在住経験があり(現在はニューヨークに住んでいるそうだ)、そのせいか、去年リリースしたEP「Soft Control」ではシカゴのジュークを取りいれていたが、本作におけるスラヴァは、そのジュークを見事に血肉とし、独自性を獲得している。


 とはいえ本作は、ジュークだけで構成されているわけではない。「I Know」はディープ・ハウス的エレガンスを漂わせているし、「Heartbroken」では、LAビート・ミュージックに通じる脱臼グルーヴを披露している。だが何よりも興味深いのは、「Crazy Bout U」である。壮大なシンセ・サウンドから始まり、次にジュークのリズムが流れこむ展開は、ゴールディーのドラムンベースを想起させる。おそらくゴールディーを意識してはいないと思うが、結果的にこうなったのは面白い。基本とするBPMが近いこともあり、以前からドラムンベースとジュークの相性の良さは指摘されていたが、ブルックリンのインディー・ミュージック・シーンに通じる本作でそれをあらためて実感できたのは嬉しい驚きだ。


 《Pitchfork》に『The New Electronic Brooklyn Underground』という記事がアップされたことからもわかるように、ここ数年の間でブルックリンのインディー・シーンには、テクノ、ハウス、ディスコといったダンス・ミュージックが流入し、盛りあがりを見せているが、本作はそこにジュークを持ちこむ本格的な契機になるかもしれない。そして、インディーというタグに新たな文脈を接続したモダン・ポップ・ミュージックとしても高く評価されるはずだ。



(近藤真弥)

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