PEACE『In Love』(Columbia / Sony)

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 なぜか最近、英バーミンガム出身の4人組バンド、ピースのデビュー・アルバム『In Love』をよく聴いている。もちろんお気に入りなんだけど、何度聴いてもなぜ大好きなのかよくわからない。だからこの場をお借りして、本作にハマっている理由をいろいろ考えていきたい。


 まず、英ガーディアン誌が「インディーの未来」と祭りあげるように、筆者も本作にイギリスのロックを担える輝きを見いだしたと思ったのだが、それはピースというバンドには似合わないと思う。ザ・1975のようなスタジアム・サウンドを鳴らしているわけではないし、ガンガン前に出るアグレッシヴさがあるわけでもない。まあ、「未来」と言いたくなる気持ちはわかる。よく言われるように、イギリスにおいてロックは、これまで持っていた絶大な影響力を失いつつある。しかし、これはイギリスのロックがつまらないのではなく、ヴァンパイア・ウィークエンドのエズラが言う「アメリカの子供たちにとって、ロックはどんどんニッチなジャンルになりつつある」(ミュージック・マガジン2013年5月号のインタヴューより引用)状況が、イギリスでも広がっているということだろう。だから筆者はイギリスのロックがつまらないとは1度も思ったことないし、ましてや"終わった"なんて、脳裏をよぎったことすらない。100歩譲ってイギリスのロックが本当に死にかけているとしても、救世主の役割が似合うのは、パーマ・ヴァイオレッツやザ・ストライプスだろう。なので、ピースを未来云々と捉えるのは少々無理がある。


 では、時代の先を行く音楽性に惹かれた? とも考えたが、それはもっと違う。ピースの音楽性はお世辞にも革新的とは言えない。ハッピー・マンデーズのような、いわゆるマッドチェスター・サウンドを基本としながら、C86やアノラックを想起させる瞬間もあるなど、言ってしまえば、新しさは皆無に等しい。収録曲の「Step A Lil Closer」と「Float Forever」の2曲が、この推察を助長する。「Step A Lil Closer」のサウンド・プロダクションは『Sandinista!』期のザ・クラッシュと類似するし、さらに驚くのは「Float Forever」である。この曲の歌いだしは、ザ・ビートルズの「A Day In The Life」にそっくりなのだ。初めて聴いたときは思わず口をあんぐりさせてしまったが、こうもあからさまにやられてしまうと、まさに痛快そのもの。


 ここまで、ピースにハマっている理由を消去法的にあれこれ考えてきたわけだが、最後に残ったのは、彼らは好きな音を躊躇なく鳴らせる快楽主義者の集まりだから、である。音楽は、送り手が鳴らしたい音と聴き手の求める音が必ずしも合致するとは限らない。特に、多くの人に届けることを目的としたポップ・ミュージックでは、そのジレンマが足枷になることも多々ある。とはいえ、そのジレンマがポップ・ミュージックに歪さをもたらし、それが面白さとなって多くの人に届けるための起爆剤となるのも、また事実なのだ。だからこそ筆者は歪な面白さに取り憑かれ、今でもポップ・ミュージックと腐れ縁の如く付きあっているのだが、ピースにはジレンマがまったくない。そりゃあ好きな音を自由に鳴らせるわけだから、当然と言えば当然だ。しかし、ピースが持つこの自由な雰囲気に、筆者は惹かれたのだと思う。THE BAWDIESや毛皮のマリーズがデビュー当初によく言われた"まんま"という揶揄、それからオレンジレンジの「ロコローション」に対するパクリ批判が横行した時代を遠い過去にしてしまうフリーキーさとでも言おうか、そうした怖いもの知らずな側面が本作にはある。


 ネットを介してあらゆる時代の文化にアクセスできる現況については至るところで語られているが、そうしたネット以降の感性は、新しい音が"今"と直結しない状況を作りあげてしまったのかもしれない。そんな状況のなか登場したピースは、新しい音が"今"なのではなく、面白い音が"今"なのだと告げている。てのは考えすぎでしょうか? いや、もしかすると確信犯かもしれない。「Follow Baby」までは平和/反戦運動のシンボルとして使われているピース・マークをモチーフにしたジャケット・デザインを貫いているし、もっと深読みすれば、そのうちの1枚である「Delicious」は、ストーン・ローゼズのトレード・マークとして有名なレモンに対するオマージュに思えなくもない(ピースはスイカだが)。そしてトドメは、レコード・ストア・デイ限定シングルの「California Daze」だ。このシングルのジャケットはなんと、スマイリー・フェイスである。あの黄色いスマイルを見て思いだすのは、やはりセカンド・サマー・オブ・ラヴだろう。偶然にしてはあまりにも出来過ぎだ。


 こうした奔放さが続くかは不明だが、とりあえず、この奔放さがピースというバンドを興味深い存在にしているのは確かだ。



(近藤真弥)

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