LILLIES AND REMAINS「I Survive」(Fifty One)

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 昨年からの彼らの動きは活発で、目まぐるしかった。フロント・マンたるKENT自身の原点回帰のようで、原曲の持つ重さを上品にかつスタイリッシュに再構築してみせたカヴァー・アルバム『Re/Composition』のリリースでは、それまでのファン以外でも日本で独自の美意識を貫き続ける彼らの存在性により注視されるようになった。ハシエンダ大磯フェスティバルへの参加。世界的なバンド、PURPLEとのトリプル・スプリット・アルバム『Underrated』での充実した新曲の披露。例えば、その中でも「Final Cut」に関しては過去曲「Moralist S.S.」や「devaloka」などと並び、新しくもこれまでとこれからを架橋するもので、ライヴでも映えていた。


 そして、THE NOVEMBERSとジョイントしたイベント"Sigh"では、新たな同世代のバンドとしてひとつのシーンを着実に形成してゆく萌芽があった中、満を持して、ということになるだろうか、LILLIES AND REMAINSとしてのシングル「I Survive」が届けられた。まずは、公式HPで公開された新しいヴィジュアル・イメージに驚いた方も多いと思われる。基本、そのときのモードを刻印してきたといえるが、シックで冷ややかな質感はそのままに、鎖、KENTのリーゼントに革ジャンなどが静かな怒りを醸している印象を受ける。表題曲の「I Survive」は過去になくアグレッシヴなリフ主体のパンク・チューン。旋律のなめらかさや音響美は彼らの真骨頂といえるが、これまでがUKのポスト・パンク、ニュー・ウェイヴの色味が濃厚だったのを思うと、70年代のニューヨーク・パンク・ムーヴメントに属するバンドの音や詩情がよぎる。テレヴィジョン、リチャード・ヘル・アンド・ザ・ヴォイドイズ、デッド・ボーイズ、『Re/Composition』でもカヴァーしていたスーサイドなどの因子。特に、トム・ヴァーレインの持つ知的で内側に憤怒、失意が滾っている感覚をトレースできるかもしれない。


 70年代のニューヨークにおけるパンクとは音楽的による反抗心と芸術的な感性を取り戻すことが大きく、今回、具体的な曲名に「I Survive」、「You Won't Care」、「Real」と"YOU"を巡った痛みと、わずかな前を向こうとする気概がこれまでにない直截的な言葉によって紡がられながら、政治的・社会的・経済的情勢への反抗を軸としたロンドン・パンクではないというのが彼らの捻じれ方も示唆しているような気もする。


 また、優雅にスタイリッシュに美意識を音像の中に研ぎ澄ませてきた来し方や都度、大江健三郎、インドの宗教観、トランスパーソナル心理学などのテーゼ下に物質的社会への抗いをリリシズムとして書き替えようとしてきたとしたならば、今作では、よりシンプルなKENT自身の「個」の深奥に持つ(抽象的ではないが、哲学的な)感情の錯綜を帯びているのも感じる。


 表題曲に通底する空気で個人的に想い出したのは、レディオヘッドが昨今のライヴで披露し始めている新しい曲である「Full Stop」のムードだった。最近の少し難解なグルーヴを持ち始めている中で、リリックと展開が直截的になっており、《All The Good Times》という晴れやかなフレーズも残る。では、これは"退転"なのかというと精緻には違うと思う。例えば、「I Survive」には以下のフレーズが残る。


《Cause You're Alive To Feel Me , I Survive / Living With Great Pains , It's Normal Life. (君が僕を感じるのならば、僕は生き抜こう / 痛みとともに生きること、それが当たり前の人生だ》(「I Survive」)


 狭間には、《Too Late(遅すぎた)》、《Emptiness(空虚)》、《I Can't Reset(もう修復できない)》といった、そんな想いも吐露される。また、ネオアコ的な穏やかで柔らかな旋律にシンセが絡む「You Won't Care」では、《Before You Know It , Time Is Around You / How Can You Resist Time? It's Up To You.(君の知らない間に、既に時間は君を取り囲んでいる / どうやって時間に抵抗する?それは君次第だ)》と投げかけ、《How Does It Feel To Be Alone?(一人になるのはどんな気分だろう》と途方に暮れたように、繰り返す。ニュー・ウェイヴ的意匠と従来の彼らの色を受け継いだ「Real」でも憔悴の影が落ちている。


《I Know My Soul Is Not So Vibrant. / Just Waiting For Things That Inspire Me. / These Are Many Cracks In The Road We Stand. / So, We Couldn't Take A Life Worth Living. It's "REAL" / Girls, Money, Friendship Appeared In Our Life As A Bug. (今、僕の魂は活力がないのはわかっている / 自分をインスパイアしてくれるものを探しているだけだ / 僕たちの立っている道には沢山の罅が入っている / だから、価値のある人生を選択できなかったんだ それが"現実" / 女、金、人間関係がバグとして人生にあらわれてくるんだ)》(「Real」)


 ここで、ルドルフ・ウィトカウアーの呈示した「アレゴリー」と「シンボル」という概念を援用してみると、分かるものもあるかもしれない。例えば、平和には鳩や民衆の列、子供の笑顔、春には桜や光といったアレゴリーは可能なのかといえば、そうではない疑念も擡げてくる。無論、シンボライズされたそれらが指す意味領域は可視化できる。但し、アレゴリーとは過去の膨大な歴史の集約で今瞬間の現実の縁をまわるものであり、アレゴリーが貧困になるほどに想像力や認識到達力が褪せてゆくともいえる。この「I Survive」でのアーティスト写真、ジャケット、曲までアレゴリーに細部が整えられている。その細部は穿たれるべき外延なのか、知的技法の妙なのか、それは聴き手に預けられていると想える。リアリティと、個たる人間が抱える汎的な懊悩と喪失が散見しながら、3曲を通じて、何故か重さを感じないのは曲の強さもあるが、彼ら自身の歩みが決して順風ではなく、困難含みだったからかもしれない。


 今、この混沌とした瀬で、繊細なまでに「あなた」を見据え、生き抜くことを歌う。明らかな変化を遂げつつある彼らの一歩を刻印したシングルとして感慨深い。



(松浦達)


【編集部注】2013年5月15日リリース予定

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