aus『ReCollected』(PLOP)

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 06年の『Lang』で、東京出身のYasuhiko Fukuzonoのソロ・プロジェクトausの紡ぎ上げる音に興味が向いた。IDM、エレクトロニカをベースに、ときに物語性や寓話性も含み、想像力を刺激する。あの鮮烈なアルバム・ジャケットと曲名の見事さにも魅かれた。


 近年の電子音楽の歴史とは、都度の更新とともに、「無題」や「匿名」であることで意味も付されている分野だが、もはやクラシックとなった、1998年のボーズ・オブ・カナダによる『Music Has The Right To Children』を考えれば早いだろう。この作品は、幽玄に、白昼夢的に、なおかつ細かく刻まれるビートはヒップホップ的にと、小難しさと箱庭感があったそういったジャンルの刷新をはかるアルバムだったが、ausもその系譜に位置しながら、振れ幅の広さと可塑性はその後のキャリアで可視化出来る。


 そして、ツジコノリコや宮内優里らとの共振など、多岐に渡る活動の一端とこれまでの軌跡が垣間見えるのが、ausの06年から12年までのリミックス・ワークを集めたこの『ReCollected』になる。本作はリミックス集ながら、ausの記名がしっかり刻印され、それぞれのアーティストの色をパレットの上で混ぜ合わせてしまう、そんな地続きの「うつし絵」にも見える。


 今作の曲群のなかでも特筆したいのは、そのヴィジュアル・センスと耽美的なサウンドで世界的に知られている、ヴォーカルCaluとトラック・メイカーSenからなる日本人ユニットMatryoshkaの「Anesthetic」のリミックス。原曲を再解釈しただけにとどまらない、ノスタルジアを基底にした淡い音像で示されている。また、ポスト・クラシカルの中で人気/実力ともに高い、旧・東ドイツ出身のピアニストにしてコンポーザーのヘニング・シュミートによる「Schnee 2」のリミックスも美しいトラックになっており、有名無名問わず、ここでの15曲、15アーティストのそれぞれの原曲と比較してしまいたくなるとともに、まるで、近年の電子音楽のひとつのクロニクルを紐解く、そんな感覚もおぼえる。


 そして、3月から行われているヨーロッパ・ツアーでは前述のウルリッヒのみならず、マトモス、フェネスらと共演との報も喜ばしく、そう考えてゆくと、マイスペース隆盛の頃のいつか、シーンに数多く溢れたIDMやエレクトロニカを基軸に、いま一度、楽譜を書き直す段階に来ているとも思え、既に次の地平は整っているのかもしれない。


 『Lang』のときから、雄大な海に淡く照る太陽、その光を背に二人のシルエットがあった。詮索しようがしまいが、その二人は誰でもいいのだろうと思う。犬童一心という映画監督に言わせるまでもなく、そこに二人が居るということだけで、少なくとも不幸ではないかもしれず、海と太陽や自然を切り取ったジャケット越しに匿名的に思えたausはもはや、固有の記名性を持つアーティストになっていった。この『ReCollected』は、大味な電子音のロマンティシズムや箱庭的な表現、双方の溝を軽やかに越えてくる。




(松浦達)




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