DJ KOZE『Amygdala』(Pampa)

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 前作『Kosi Comes Around』以来8年ぶりとなるアルバム『Amygdala』だが、このタイトルを見たときは少々驚いてしまった。何しろ"Amygdala"とは、日本語で扁桃体を意味するからだ。"なんでまた扁桃体なんてタイトルを?"と思ってしまったのは、言うまでもない。簡単に説明すると、扁桃体とは脳を構成する部位のひとつで、情動や記憶に関する役割を担うとされている。


 だからなのか、本作はどこか懐かしい気持ちを抱かせるアルバムであり、聴き手をディープな世界観に導く潜行的グルーヴは、喜怒哀楽に収まらない多彩な感情を発露している。この潜行的グルーヴに身を任せていると、だんだん夢見心地な境地に落ちていく。これはある種の退行催眠かもしれない。ゆっくり記憶を遡り、ぼやけた過去を見つめ、次第に意識が解体されていく不思議な感覚...。本作は、こうしたスピリチュアルな領域を見せてくれる。


 それを可能にするひとつひとつの音は洗練の極みにあり、綿密に計算され築きあげられた音像美は芸術的と呼ぶにふさわしい輝きを放っている。鳴るべき場所で音が鳴り、不必要な音は皆無に等しい。さらには無音さえも曲の重要な構成要素として生かすDJコーツェのミニマリズムは、リカルド・ヴィラロボスと双璧を成す独自性を獲得している。


 そして本作は、様々な音楽的要素を孕んだモダン・ポップ・ミュージックとしての創造性が光る作品でもある。ハウスやアンビエントといった、これまでの作品における基本的要素はもちろんのこと、ザ・フィールドを想起させるループの美学もあれば、インクやライに通じる甘いフィーリングを彷彿させる瞬間もあるなど、本作におけるDJコーツェは奔放とも言える横断性を披露している。それはカリブー、マシュー・ディアー、アパラット、ダニ・シシリアーノといった数多くの参加アーティストによる外的影響を受けいれた、DJコーツェの柔軟性があればこそ成せるのだと思う。


 さらに面白いのは、本作は聴くシチュエーションを選ばないということだ。クラブはもちろんのこと、ドライヴ、電車、人であふれる街などで聴いても、それぞれ違う景色を見せてくれるはずだ。何かしらの流行りや潮流に属するものではないが、変臉の如く表情を変えるハイブリッド・ミュージックとして斬新な響きを持っている。



(近藤真弥)

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