THE CLOISTERS『The Cloisters』(Second Language / p*dis)

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 最近のロンドンの《Second Language》はモダン・クラシカルのみならず、優良な音楽を届けるレーベルとして存在感を着実に高めている。リリースされる作品そのものも素晴らしい内容のものが多いのもさることながら、蛇腹折りのジャケット、アートワーク、装丁、細部などパッケージングものとしての肌理の通った美意識も感じる姿勢も頼もしい。


 例えば、《Second Language》のカタログに並ぶ、ピアノ・マジック、リチャード・モウルトなどの作品でもIDM、ドローン、アンビエント・ミュージック、現代音楽までの幅を決して難解に抽象的に呈示するのではなく、心地良い音の実験とその過程を抽出するかのようで、例えば、ある時のシガー・ロスが運ぶ風に彼岸ではなく、陶酔をおぼえた経験を持つ方や、ラ・モンテ・ヤングの決められた時間軸を消失したかのような音の漣に感応したことがある方ならば、この『The Cloisters』にも堪らないものがあるのではないだろうか。


 プリンス名義をはじめ、あのレジェンドともいえるUKサイケ・フォーク・シンガーのマーク・フライとの共同ワークスなど多岐にわたるプロジェクトに関わってきた、英国南部の海辺の町ドーセットに在住するマイケル・タナーのこの新名義たるザ・クロイスターズのセルフ・タイトル作。


 クレジット欄にはレコーディングとミックス期間に2008年から2012年と記されており、4曲で42分弱、そのうち、2曲は17分半、15分半という長尺のトラックであり、緻密な構成と冗長にしすぎない巧みな音色の配置に相当な神経が巡らされていることはしっかり聴覚を研ぎ澄ませると、分かってくる。


 客演アーティストたちのハープ、ハーモニウム、ヴィオラ、チェロから静かに控えめに弾むピアノ、爪弾かれるギター、一部のフィールド・レコーディングが為されたのもあり鳥の囀り、遠くに木々の葉の擦れ合いまでが渾然一体となった音は透き通った麗しさに満ちている。


 1曲目「Riverchrist」は、なだらかに音に色が加えられ、ときに静謐さえも包含しながら、視界をじわじわと拓けさせ、刷新させてゆく。2曲目の「The Lock Keeper」では、角のないピアノの音色をベースにふと残像のように、幾つもの音や環境音が入り込む小品。自然の中に居るかのような始まりからの3曲目「Freohyll Nocturn / Hymn」では弦が活かされながら、自分のその日常に音楽が寄り添い、鳴っているそんな近さがあり、高踏さはない。それでも、マジカルな音絵巻が展開されるのもあり、壮大さはあるが、畏まったところはない佳曲になっている。


 懐かしさや郷愁、"在るはずもない"慕情、そんな言葉を附箋してもいいくらい、このアルバムに内包されている何かは人間が元来持っていて、忘れてしまったかもしれない、感情の内側を刺激してくる。


 逃避のための、微睡むためのそれでもなく、幾重にも重ねられ、それぞれの楽器や音色自体が空間や位相を慮るように、音楽と、日常を往来する引き延ばされる時間の狭間に足せばいいのは一生活者たる聴き手自身だという気もする。4曲目の「A Pelagic Recital」を聴いていると、たまたま自分が机に置いたコーヒーカップの音さえもそこに取り込まれる、そんな感じにさえなる。


 飽和気味にもなりつつあったモダン・クラシカルの趨勢にひとつの楔を打ち、新しい地平の向こうを見渡す充実した一作だと思う。



(松浦達)

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