OGRE YOU ASSHOLE『Confidential』(Vap)

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 不世出のバンド、ゆらゆら帝国を比較に出すのも精緻には違う、彼らのオルタナティヴな佇まいは唯一無比になってきたともいえるが、ただ、その歩み方をときに彷彿させるように、音の抜き差しの妙と日本語の発語、語彙までシェイプされてゆく在り方は一旦、昨年の『100年後』で極まった気もした。


 『100年後』のリリース・ツアーでもライヴ・パフォーマンスでも、過去曲も良かったが、ミニマルなリズムとサイケに浮遊するような新曲の持つ彼岸的な風情にトバされる快感が先立った。例えば、録音物として1曲30分ほどの作品をリリースしても今の彼らだと至ってフラットに捉えられる気がする。また、これまでサポート・メンバーだったベースの清水隆史が正式メンバーとなり、新しい四人体制となった中、次のアクションが気にもなっていたが、或る意味では企画盤の側面もありながらも、オリジナルとしても堪能できる今作『confidential』には確実な手ごたえとともに、進んでゆく意思が底流する。


 限定で発売されていた2枚の12インチ「浮かれている人 Twilight Edition EP」、「dope EP」から4曲、過去曲の再録音といっても、完全にリ・ワークといってもいいだろう4曲が収められた、アルバム単位での構成の精度が高まっていた近年の流れを一旦、保留しつつ、音楽的語彙をさらに披瀝せしめる、そんな多彩な内容になっている。


 まず、既に12インチで聴いていた人も居るだろうが、1曲目の「真ん中で」、8曲目の「バランス」では2010年のミニ・アルバム『浮かれている人』に入っていた原曲の外装を取り外し、前者はデモーニッシュに潜航するコーラスと、ミニマルな反復がメインになっており、後者はボッサ的にラフで緩やかなムードが漂っている。2005年の『OGRE YOU ASS HOLE』からの「また明日」は牧歌的な拓けたポップネスに再構築されながらも、刻まれるフレーズはミニマルで音響にも隙間が活かされており、そこに、不穏な歌詞が朗々と届く。


 同じく初期にあたる「バックシート」も今のモードの沿い、AOR調のスイートな様相に変化し、というように、初期からこれまでの軌跡をあくまで進行形のセンスと感性で捉え直しているせいか、完成度が高いあまり、その分だけ今後の心配もあった『100年後』の、その後も伺えるような要素も散りばめられており、この作品から入ってみる人がいても、全く問題ないとも思う。


 それぞれの曲に自在な色を帯びているが、特筆すべきは、『homely』に収録されていた「フェンスのある家」の変化かもしれない。トライバルなリズムにノイズとホーンが獰猛に鬩ぎ合うエレクトリック期のマイルス・デイヴィスを思わせる美しさが残るもので、聴いていて、とても心地良い。


 全編を通して、昨年にototoyの企画で出戸学氏が好きなレコード紹介をするUSTREAMをふと想い出した。そこでは、ファウストやノイ!といったクラウトロックから、ヨ・ラ・テンゴのベーシストのジェイムズ・マクニューのソロ・プロジェクトDUMPがNYパンク、GGアリンの「NYC Tonight」をディスコ調にかつポップにカバーしたもの、アーサー・ライマンまで全体的にムーディーかつ静かにビートが跳ねる曲が多く、メンバーも古いレコードを聴き漁っているというのもあり、その感覚が今作にもトレースされてもいるのかもしれない。


 冷ややかなイロニーと虚無。その背後に狂気めいた不気味さが渦巻いていたデカダンな美意識を備えた彼らも歳月とともになだらかに削ぎ落とされるように、予感としての「なにもないこと」をあくまで音楽で追求するようになってきた、そんな中で、外部からではなく、自らの内部から血を入れ替えようとする試みが功を奏した今作では、その「次」への道が既に整備されてゆく感覚をおぼえる。


《人気のない 朝になってく 視覚はないよ 日に溶けるかい 朝になってく 近くはないよ》(「バランス」)


 近くは、ない。


 彼らの音楽と存在がこうして研ぎ澄まされてゆくのは何よりも頼もしい。



(松浦達)

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