THE MILK『Tales From The Thames Delta』(Sony)

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 ザ・ミルクはリッキー・ナン(Vocal)、ダン・ル・グレスリー(Guitar)、ミッチ・エイリング(Drums)、ルーク・エイリング(Bass)から成る4ピースバンドであり、ドクター・フィールグッド、デペッシュ・モード、ザ・プロディジー、ブラー、クーパを輩出してきたエセックスからの新人バンドである。そんな彼らが昨年上梓した記念すべきデビュー・アルバムが非常に優れた出来になっていたので本稿で紹介させていただきたい。R&Bバンドと形容されることもあるザ・ミルクの音楽性の根本にあるのはモータウン、スタックスといったオールド・スクールなソウル・ミュージックと、1950年代のロックン・ロールである。そしてそこにエレクトロニカ、ヒップホップなどが奇妙なセンスでブレンディングされ、極めてユニークな音楽性が形成されている。ザ・ミルクの影響源の広さは彼らのホームページを見れば非常によくわかる。そこには彼らがボビー・ブランド「Ain't No Love In The Heart Of The City」、ケミカル・ブラザーズ「Galvanize」、スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ「Ooh Baby Baby」をカバーしているセッション動画があるのだが、これらは彼らの音楽性を象徴するような、興味深く、そして極めて納得のゆくチョイスだ。このクオリティの高いカバーを聴けばこのバンドがいかにそれらの楽曲を、ひいてはそれらの楽曲が該当しているジャンルのうまみを熟知しているのかが良くわかる。


 それではアルバム「Tales From The Thames Delta」の話に移ろう。一曲目「Broke Up The Family」はアグレッシヴなドラム・ビートと太くうねるベースが織り成すグルーヴの上で、叩きつけるようにピアノを弾きながらシャウトするリッキー・ナンが印象に残る(リトル・リチャードの名前が頭をよぎった)、鮮烈なナンバーとなっており、全編にわたり爆発的なエネルギーが漲っているこのアルバムのスタートを切るにふさわしいナンバーとなっている。この曲を聴けばこのバンドの最大の聴きどころがナンのヴォーカル(その唸るようなヴォーカル・スタイルはジョン・フォガティを彷彿とさせる)とエイリング兄弟の、ビートを重く確実に刻みつけてゆくようなドラムと、うねるように、そして滑らかにそれに絡み付いてゆくベースによって構成されるリズム隊であることがよくわかるだろう。三曲目「(All I Wanted Was)Danger」はまさにキラー・チューンと言えるこのアルバム中最もキャッチ―なナンバーである(PVも笑えるので観ていただきたい)。イントロでホーンが高らかに鳴らされるのだが、それがスタイル・カウンシル「Shout To The Top」を彷彿とさせ、クスリとさせられる。「Nothing But Matter」はレゲエ、スカの影響が色濃いナンバーで、この曲からはバンドが持っている別ジャンルの音楽に対する柔軟さと咀嚼力(もちろんレゲエ、スカに対する教養があった可能性もあるが)を伺い知ることができ、そしてその柔軟さが悪ノリとなって面白い結果を出したのが「Kimmi Kimmi」におけるヴォーカル・エフェクトだろう。バンドの音楽性の核が非常に強固なので、サウンドにおける遊びが遊びのままで終わることなく、その全てが曲の味付けとして機能しており、デビュー・アルバムでここまでの完成度に達していることに驚きを隠せない。


 もう少しザ・ミルクの音楽性についての言及を続ける。このアルバムを初めて聴いたときに連想したのはUKが誇るスター・プロデューサー、マーク・ロンソンが手掛ける一連の作品だ(特にエイミー・ワインハウス、アデル、ザ・ライク)。モータウン、スタックスなどのR&Bをベースに様々な音楽をミキシングする彼のセンス(彼のサウンドをレトロモダンなど表現するメディアもある)はザ・ミルクと非常に類似している部分があるように思える。こうしたマーク・ロンソン的なレトロモダンのセンスがザ・ミルクにも感じられるのは、彼らの力によるものだけではなく、おそらくアルバムのプロデューサーにブラッド・バルーを起用したのが大きな要因の一つだろう。ブラッド・バルーは盟友ダム・サーチとともに、イギリスが誇るプロダクション・ユニット、ザ・ネクストメンをやっており、ファーサイド、パブリック・エネミー、プランBなどヒップホップ・アクトを中心にプロデュースをおこなってきた。そのため、本稿の冒頭でも少々言及したが、このアルバムにはヒップホップの要素(それも少々オールド・スクールな)が少なからず導入されている。「Broke Up The Family」の中盤や「Hometown」の最後の30秒でなされている奇妙なエディット、「B-Roads」でのスクラッチの導入。また、リズム隊のビートにヒップホップを感じるのはエイリング兄弟がザ・ルーツの影響を多大に受けているというだけでなく、ブラッド・バルーのエディットによるものであると考えて間違いないだろう。ザ・ミルクの持つレトロな部分を上手くモダナイズすることができたのは彼の力によるところが大きいはずだ。だからマーク・ロンソンやその他のレトロモダンと言えそうなアーティストたち(例えばジェイミー・リデルやメイヤー・ホーソンなども当てはまるのではないか)と彼らが異なる点はヒップホップ色が濃厚なところであるとひとまず言えるだろう。


 このレビューを終える前に二つ言わなければならないことがある。一つ目はこのアルバムの収録曲「Picking Up The Pieces」に超豪華なゲスト、イギリス人俳優イドリス・エルバがポエトリー・リーディング風なラップで参加しているということだ。『プロメテウス』のキャプテン・ジャネクの役を演じていたのが記憶に新しい。人によっては(というか筆者はホラー好きなので)『28週後...』のストーン准将を思い出すかもしれない。また、彼はアンジー・ストーンやファット・ジョー、バスタ・ライムスなどのPVにも出演している。


 そしてもう一つがこのアルバムのテーマである。このアルバムに収録されている曲たちは、ザ・ミルクのメンバーたちが育ってきたエセックスでの悲喜こもごもの日々について歌われているものがほとんどである。それを象徴するような「(All I Wanted Was)Danger」のリリックを引用してこのレビューを終えることにする。


《俺は危ないやつになりたかったんだ 少しはマシなんだって感じたかった。 なぁベイビー、なんで俺はマシになる必要があったんだ? 忘れられないリズムを刻んでくれないか 人生ってやつは公平にできてるのさ》



(八木皓平)

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