THE MEN『Open Your Heart』(Sacred Bones / Hostess)

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 4人組のパンク・バンド、ザ・メンのサード・アルバムとなる本作『Open Your Heart』を聴けば、初めてロックンロールに触れて真っ白になった時の記憶が蘇る。とことん痺れ、この作品を聴いた誰もから、ロックは死んだだとか、生きているだとか、よく分からない言葉を発する口は消え失せて、ぐうの音も出ないであろう。ロックにまつわる哲学性や神格化など、どうでもよくなる。


 鬼気迫る轟音の熱は冒頭曲「Turn It Around」からして沸点に達し、聴き手の鼓膜をまっすぐ刺す。ダイナソーJrがマイ・ブラッディー・ヴァレンタインの『Loveless』を訳も分からず強引に真似てしまったようなサウンドは、触れれば破裂してしまう程の迫力があり、どこをどう聴いても飼いならされた音はない。四方八方から聴き手に掴みかかるギター・ノイズ、スティックが折れそうな程のドラムの鳴りがラモーンズのように痛快に突き抜ける。空気を斬るようにファズが飛び交い、シャウトが強靭に響く。とにもかくにも破れかぶれだ。このバンドは安全なロック・ミュージックに流れない。むしろ安全なロックってなんだ? という勢いなのだ。「分かってほしい」ではない。「分からせてやる」という意気込みが、ひたすら強く鳴っている。


 ブルックリンのバンドではあるのだが、ジーザス&メリー・チェインやスワーヴドライヴァー、デヴィッド・ボウイなどの音楽性を取り込むというUK志向。しかし、ザ・メンは取り込みつつも、ハードコアやカントリーなどとごちゃ混ぜにして鳴らしてしまう。溢れ出てくるアイデアを設計図なしで振り撒いているのだ。その意味で、ザ・メンの勢いとは、同じくブルックリンのバンドであるTV・オン・ザ・レディオとはタイプが違い、様々な音楽要素をごった煮のまま何のためらいもなく吐き出せるところにある。その原初性に僕は震えた。


 意識的に雑然としたさまを雑然と鳴らしているのかもしれないと思ったが、しかし、彼らの音楽に計算性はない。どのような音楽要素も取り込めるのだろうが、そのポテンシャルの高さを自分たちでは整頓できず、整頓できない不器用さが潔くそのまま表れている。しかもマンサンのような妖艶さすら熱として鳴らす。それが聴き手の体温を一気に上げ、端的に言って、かなり燃える。何らかの分析を必要とする音楽はあるが、分析する必要のない音楽や、情報を必要としない音楽があるのも確かで、まさに『Open Your Heart』がそれなのだ。「ロックを聴くことって、打ちのめされることだよね」というドン・マツオの言葉が頭に浮かんだ。


 音楽に飲み込まれたいと思ったら本作を手に取ればいい。こういった思考では追いつけない作品が生まれるから創造は未知の領域を広げ続ける。聴けば、リスナーにとって、自分が知識で音楽を聴いているのか、感覚で聴いているのか、あるいは別の何かで聴いているのかというような自分の聴取スタンスがくっきりと表れるだろう。ある意味、踏み絵のような作品と言える。ちなみにこのバンドについて、アジアン・カンフー・ジェネレーションの後藤は将来性のあるバンドだと言っている、という噂を聞いた。仮にそうならば、僕は違うと思う。ザ・メンは今しか生きることのできないバンドだ。「今」にしか賭けることができない。その「今」という瞬間に少しでも近づきたい一心で、ザ・メンはロックを鳴らす。鳴らさずにはいられないのだ。このサウンドに痺れなければ嘘だと思う。



(田中喬史)

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