THE BABIES『Our House On The Hill』(Woodsist)

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 大きな成功を収めてきたインディー・レーベルはそのレーベル特有のカラーを持っていることが多く、そのカラーはレーベルに関わる人間たちやその設備によって規定される。《モータウン》ならばソングライター・チーム、ホーランド=ドジャー=ホーランドが書いた楽曲をファンク・ブラザーズが演奏することで生まれる「モータウン・サウンド」、ジャズの老舗レーベル《ブルーノート》ならばアルフレッド・ライオンによるプロデュース、ルディ・ヴァン・ゲルダーの録音技術、フランシス・ウルフによる写真、リード・マイルスによるレコード・ジャケットなどのチームワークである。他にも《4AD》での設立者アイヴォ・ワッツ=ラッセルとデザイナーチーム23 Envelopeのコンビネーションや、《ファクトリー》におけるハシエンダなど枚挙に暇がない。


 2006年にジェレミー・アール(ウッズ)によって設立されたインディー・レーベル《Woodsist》のレーベル・カラーとして挙げられるのは、レーベルのハウス・スタジオとなっているリア・ハウス・スタジオである。このスタジオは元々ジェレミー・アールも在籍していたミネガーのメンバーたちが住んでいた家で、そこに録音機材などを持ち込むことで、住居兼レコーディング・スタジオとなった建物だ。日々の生活と共存している状態でレコーディングが行われており(ギタリストが料理を作っている最中に、ドラマーが録音をしているといったことが日常茶飯事だ)、ミュージシャンたちは非常にリラックスした環境でレコーディングができるようになっている。粗く、ざらついてはいるが同時に暖かみのあるリア・ハウス・スタジオ・サウンドはホーム・レコーディングの一つの粋と言っても良いだろう。このサウンドの暖かみは、同じローファイと呼ばれるバンドでも、例えばぺイヴメントなどのクールでざらついた音の粗さの対局をいくものだ。また、このスタジオの運営者であり、リアル・エステイトやブランク・ドッグス、ヴィヴィアン・ガールズ、ウィドウスピークのプロデュースもしている現ウッズのドラマー、ジャーヴィス・タヴェニエルは、「全てのプロセスは常にラモーンズのレコードとの対話から始まる」(ALTERED ZONES)という発言をしている。本稿で紹介するザ・ベイビーズを聴けば非常に良くわかるのだが、このリア・ハウス・スタジオ・サウンドの思想背景の一つにラモーンズのサウンドがあるということに疑いの余地はない。


 このように、ある意味では極めて伝統的なローファイ・ミュージックの系譜をなぞりながら佳作を産み出し続ける《Woodsist》レーベルは、ジャンルの名前が生まれては消えてゆくあまりにも移り変わりが早すぎるアメリカのミュージック・シーンの中で異彩を放っており、それはこのレーベルに在籍しているヴィヴィアン・ガールズ、ウッズ、ノジーやレーベルから巣立っていったリアル・エステイト、ウェーヴス(Wavves)、カート・ヴァイルという名前たちがそれを証明している。


 ザ・ベイビーズはこのレーベルの看板バンドであるウッズのベーシスト、ケビン・モービーとヴィヴィアン・ガールズのギタリスト、キャシー・ラモーンが中心となって結成したバンドである。フォーク/カントリーをベースとしながらエクスペリメンタルなサイケデリアを奏でるウッズとチルウェイヴ以降のアメリカのミュージックシーンの影響を多大に受けながら、ひねくれたガレージ・ポップを鳴らすヴィヴィアン・ガールズの子供はどんな音楽を響かせているかというと、先ほど述べたようなリア・ハウス・スタジオ・サウンドの極致と言ってもよいような温かみのあるアナログなサウンドで(ザ・ベイビーズの1st、2nd共にこのスタジオでレコーディングされている)、そこにグッド・メロディがこれでもかというくらいに凝縮されたガレージ・ミュージックだった。1stアルバム『Babies』で響かせたその音にはラモーンズだけではなく、13thフロア・エレベーターズ風のサイケデリアが漂っており、またローファイ・ミュージックについて言及する際にしばしば持ち出される『C86』(1986年にNMEがリリースしたカセット・コンピ)にも似た、楽しげではあるがどこか儚いギター・ポップに満ちていて、一口にガレージ・ミュージックと言ってもそこには様々な文脈が予め織り込まれており聴けば聴くほどにその魅力にひかれていく。


 彼らにとっての2ndアルバム『Our House On The Hill』をまず一聴して感じるのは前作と比してクリアになったそのサウンドだ。これはおそらくプロデューサーが前作を担当していたジャーヴィス・タヴェニエルからロブ・バーバト(キャス・マコモスのバック・バンドでもあるダーカー・マイ・ラヴのメンバーであり、ザ・フォールにも一時在籍。ラ・セラのプロデュースもしている)に代わったことが大きな要因だろう。バンドの音楽性に大きな変化は見られないが、前作よりも遥かにサウンドにメリハリが出て、アレンジも丹念に練られているという印象を得た。ザ・ベイビーズの最大の良さであるメロディーが前面に出るような彼のプロデューシングがこのアルバムを素晴らしいものにしたことは間違いない。キャシー・ラモーンがヴォーカルを担当している「Baby」「See The Country」を聴けばそれが本当によくわかる。柔らかに叩かれるドラムスの上で鳴らされるざらついたギターに、キャシー・ラモーンのどこかたどたどしいヴォーカルが乗ることで立ち上がってくる官能的なサウンドに思わず背筋がぞっとしてしまう。文字にするとこれほどまでに単純だが、そこに感動を宿らせるのがローファイ・ミュージックであり、時間だけは持て余した、しかしそれ以外は何も持っていない者たちが発明した音楽の美しさなのだろう。ケビン・モービーが弾き語る「That Boy」のため息のような、先ほど思いついたメロディをなんとなく歌ってみたような彼のヴォーカルを聴くと、その認識は決して間違いではないように感じる。


 先日発売された『モンチコンのインディー・ロック・グラフティ』に載っているジェレミー・アールへのインタビューによると《Woodsist》レーベルの経営は昨今の音楽業界の不況の影響をそれほど受けず、「そこそこ大丈夫」であり、彼は音楽に関する仕事のみで生活してゆくことが可能となっているような状態のようだ。このレーベルから、リア・ハウス・スタジオから生まれる音楽を求めるリスナーがそれだけ多く存在していることを喜ぶと同時に、さらにたくさんの人々に届くことを願ってやまない。



(八木皓平)

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