MEMORY TAPES『Grace / Confusion』(Carpark / Hostess)

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 チルウェイヴとは鑑みるに、そもそも、10年代に入り、持ち上がってきたタームで定義的には不精確なところもある。サウンド的には微睡むような特徴的なシンセ、ディレイのきいた甘美なサウンドスケープ、更には、どことなく、ローファイでベッド・ルームから零れだしてくるようなある種の逃避たる行為性であったかもしれず、ヒプナゴジック・ポップ(≒入眠作用のある音楽)と評される側面どおり、その揺れる音像の中に意味がある、そんな印象も受ける。


 加え、現代らしくネットを介しての拡がりが背中を押し、ライヴ・パフォーマンスそのものよりも呈示されるサウンド自体の精度、何らかの失われたムーヴメントだったのかもしれない気がする。しかし、ウォッシュト・アウト、スモール・ブラック、ネオン・インディアン辺りのアクトと並び、セカンド・フェイズに入ったと思われるトロ・イ・モアが新作にて踏み込んだ端整で流麗なメロウでジャジーな世界観と比肩してUS、ニュージャージー出身のデイヴィ・ホークのソロ・プロジェクトことメモリー・テープスの1年半振り、3作目となる新作『Grace / Confusion』において磨かれた音世界は、明らかにチルウェイヴ「以降」の、しかし、濃霧の中にコクトー・ツインズからスクリッティ・ポリッティ辺りの80年代的な音響美、アンビエンスと細かいビートの狭間を行き交う稚気と穏やかな内省が少し深まり、ただ、どことなく漂う淡くも美しいメランコリアが根をはり、前作『Player Piano』の仄かな明るさとポップネスを想像していると、覆されるところがある。


 彼岸的でありながら、サイケデリアに攪拌される冒頭の「Neighborhood Watch」、まるで、デデマウスのような子供の嬌声のカット・アップにシンセがたおやかに絡む「Thru The Field」の流れで掴まれる感触は、これまで通りの心地良さもあるが、柔和なフックがある。同時に、彼の繊細なヴォーカリゼーションが彩味を加えており、長尺の曲を含めて一気に聴き通せる内容になっていながらも、タイトルが優美(Grace)と混乱(Confusion)で引き裂かれているとおり、最終着地点はそのどちらでもない、茫漠な気配が前景化するのも興味深い。


 これまでの文脈通りのチルウェイヴ、ヒプナゴジック・ポップと捉えるにはメモリー・テープスたる記名性が浮かび上がり、確実に新しい一歩を刻印という意味で、これからこのサウンドを巡って、どういった定義、更新がされてゆくのか、新しい時代の始まりの新しい音楽の息吹を感じる。


 最後に、幾重にも重ねられた優美なサウンド・レイヤーとトライバルなリズムが残る6曲目のタイトル「Follow Me」が象徴的だという気がする。微睡んでいる中で見る現実は、ずっと醒めないままで、夢から抜け出たあとに、もう一度、ビート(鼓動)が脈打ち始める。



(松浦達)

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