KEN STRINGFELLOW『Danzig In The Moonlight』(Target Earth / Lojinx)

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 2012年の年末、僕はこのアルバムを繰り返し聴いていた。ケン・ストリングフェロウ、その名前は音楽好きにとって当然「ポウジーズのケン」であったり、アレックス・チルトンの伝説的なパワー・ポップ・バンド、ビッグ・スターの復活に正式メンバーとして一役買った男としても思い出されるだろう。そして『Reveal』や『Around The Sun』、『Accelerate』など、後期のR.E.M.では準メンバーとして、レコーディングやツアーに参加していたことも。クッキーシーンのアーカイブを辿ってみると...、やっぱりあった! モンゴルのロック・バンド、ハンガイ(HANGGAI)のプロデュースもケンの仕事だった。他にもニール・ヤングからハーフ・ジャパニーズのジャド・フェアとのコラボレーションまで。「ケン・ストリングフェロウって誰よ?」っていう人も自宅のCDやレコードのクレジットをチェックしてみれば、彼の名前を見つけられるかもしれない。その活動は本当に多彩で(もちろん、僕もすべては追っかけきれていないけれど)素晴らしい作品ばかり。


 「さて、職人気質の良い仕事もアレだけど、そろそろオレも...」と思ったかどうかは知らないけれど、ソングライター/フロント・マンとしての活動も活発になってきた。2011年にはポウジーズの7thアルバム『Blood / Candy』をリリース。バンドとしては、約5年ぶりの来日公演も実現した。そして、ソロでは(ミニ・アルバムやコラボ作を除くと)8年ぶりとなる4thアルバムが国内盤としてリリースされた。


 『Danzig In The Moonlight』と名付けられたこのアルバムは、月明かりに照らされた町と海のアート・ワークが印象的。『ダンシング・イン・ザ・ムーンライト』ではなくて、『ダンジグ・イン・ザ・ムーンライト』だから、間違えないように! ダンジグとは、元ミスフィッツのグレン・ダンジグ...とは関係なくて、ポーランドの港町の名前。"ダンチヒ"が正式な読み方だけれども、英語では"ダンジグ"とのこと。なるほど、ティム・バートンの映画みたいにちょっぴりダークなビジュアル・イメージがぴったりの14曲(国内盤はボーナス・トラック4曲収録の全18曲)が並ぶ。従来のケンは、パワー・ポップ/ギター・ポップというイメージが強いけれど、このアルバムは奇妙なユーモア(ダジャレ!)と異国情緒(レコーディングはブリュッセルのICPスタジオで行われた)が表現されたタイトルそのままに、バラエティ豊かな仕上がりとなっている。


 流麗なストリングスと音数を抑えたピアノに寄り添うようなメロディから、意外な展開で一気に聴かせる「Jesus Was An Only Child」でアルバムは幕を開ける。続く「110 Or 220v」はソロのニール・ヤングを思わせるカントリー調。アコースティック・ギターとハーモニカの響き、曲をリードするリム・ショットの軽やかなビートが心地良い。壮大なピアノ・バラッド「History Buffs」とアコーディオンが楽しげに鳴り響く「You're The Gold」のコントラストも鮮やか。ソウルフルなアレンジと歌声を聴かせる「Pray」には年季の入ったファンもびっくりするはず。「4 am Birds - The End Of All Light / The Last Radio」は、なんと狂ったバカラック(!)みたいな組曲。そして「Doesn't It Remind You Of Something」には、ザ・ヘッド&ザ・ハートの女性シンガー/バイオリニストのチャリティー・ローズ・シーレンが参加。アコースティックなサウンドに抱かれたロマンティックなデュエットも聞きどころのひとつ。


 耳を澄ませば、人懐っこいメロディの向こう側にR&B、ビートルズ、カントリー、AOR、そしてポスト・ロックまでもが息づいていることに気付く。これだけアプローチの違う楽曲を纏め上げる手腕にこそ、今までのソングライター/アレンジャー/プロデューサーとしての経験が活かされているのだと思う。"ダンシング=踊る"ではなくて、月明かりの中をゆっくりと散歩するようなミドル・テンポの曲調がどれも優しい。年は明けて2013年になったけれども、僕はこのアルバムをこれからもずっと聴き続ける。ヘッドフォンから聴こえる曲たちは、見慣れた夜の町を月明かりのように少しだけ明るく照らしてくれるから。ポップ・ミュージックという魔法、2013年はそれをライヴで体験したいな。ケン・ストリングフェロウの来日が実現しますように! それが新年の願い事。



(犬飼一郎)

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