DSTVV「Molly Soda EP」(Teen Witch Fan Club)

|
DSTVV-post.jpg

 本稿の主役であるDSTVV「Molly Soda EP」についてだが、バンド自体はもちろんのこと、音源リリースに至った経緯も謎だらけ。わかっているのは、シカゴ在住のザイン・カーティスなる男が主宰するレーベル《Teen Witch Fan Club》にとって本作がリリース第1弾であること。そしてDSTVVとは、サンフランシスコ出身の男女デュオで、ふたりの音楽はインダストリアル・グランジゲイズと呼ばれていること。それから、タンブラー(Tumblr)というメディア・ミックス・ブログ・サービスを使った活動が話題になっていることくらい。


 インダストリアル・グランジゲイズという名の通り、初期衝動であふれたノイズを力いっぱい鳴らしているのがDSTVVの特徴だ。一聴した瞬間はスレイ・ベルズを想起したけれど、聴きすすめるうちに、その歌声とヴォーカル・スタイルも手伝って、ソニック・ユースから脈々と続くUSオルタナの最良な要素も見えてきた。メタリックな質感はあるものの、"インダストリアル"と聞いてイメージする音ではないのが、正直なところ。しかし、猪突猛進の如く突っ走るグルーヴは、音を鳴らすことの快楽を見事に体現している。まあ、展開のヴァリエーションはもう少し増やしたほうが面白いとは思うけど。


 本作に収録された曲群のタイトルも興味深いものとなっている。「Ariel's a Punk」「Do Skateboards Take Wavves」など、昨今のポップ・ミュージック・シーンで活躍するアーティストを引用しているが、そのなかでも特に目を引くのは、本作のタイトルにもなっている「Molly Soda」だ。モリー・ソーダ(Molly Soda)は、タンブラーを使った活動で話題を集める女の子で、ブルックリン発の人気ストリート・ブラント《Mishka》にピックアップされるなど、ネット上だけに留まらないアイコンとして注目されている。DSTVVの他にも、ネット時代が生みだしたヒップホップ集団、同性戦隊ディオールレンジャーがモリー・ソーダをネタにしていることからも、彼女に対する注目度の高さがわかる。


 本作はタンブラーを中心としたネット・カルチャーの産物と言えるが、このカルチャーは基本的にネットを通して繋がることで大きくなっているため、その全容を把握し説明するのは難易度の高い行為と言わざるをえない。本作をリリースする《Teen Witch Fan Club》周辺で言えば、ティーン・ウィッチ(ザイン・カーティスがDJをする際に使用する名義)としてザイン・カーティスがベルリンのメディア《Electronic Beats》で取りあげられ、それをキッカケにヨーロッパでも《Teen Witch Fan Club》の名は知られるようになり、このことがおそらく、ロンドン在住のキール・ハー(この人もタンブラーがキッカケで注目されたアーティスト)が本作に参加するキッカケになったと思うのだけど、このような人脈は底なしの様相を呈している。


 さらに《Teen Witch Fan Club》周辺の特徴として、過去と現在の折衷を目指していることがあげられる。ほとんどの音源はカセット・リリースであり(本作もカセット・リリース)、ザイン・カーティスが中心となって発行され、コミュニケーション・ツールとして人気を集める《Teen Witch Magazine》というジンは、約50ページの紙媒体だ。タンブラーで繋がり集まった者たちが過去のフォーマットを掬いあげているのはなんとも興味深いし、面白いのは、そこに消費主義に対する徹底した憎悪や怒りがないこと。むしろ使える部分だけを抽出して、積極的に取りこもうとすらしている。


 ちなみに《Teen Witch Magazine》は、日本でもおなじみ初音ミクや、タンブラーで披露するファッション・コーディネイトが支持されているジェイミー・ライアン・ディーというゲイの若者をフィーチャーするなど、文化的ハブの役割を担っているようだ。アメリカのティーン向けアイドル雑誌として知られる《Tiger Beat》へのオマージュが随所で見られ、荒いテクスチャマッピングの3DCGを前面に押しだしたヴィジュアルでイナタい雰囲気を演出し、それを面白がっている節がある。


 ここまで書いてきたことから見えてくるのは、自己同一化を求められる共犯と、気に入らないものに対する剥きだしの抵抗といった二元論では捉えきれない"繋がり"だ。それは図らずも、あらゆるカルチャーが共生する場を作りあげ、本作もその場を形成するひとつの側面かつ入口となっているが、筆者はこの新たな"繋がり"に興奮を覚えずにはいられない。そしてその"繋がり"は、グライムス《Pitchfork Music Festival》におけるライヴでモリー・ソーダをダンサーとして出演させたように、どんどん広がりを見せている。この新手のネット・カルチャーが、多くの人の目に触れる日は近いのかもしれない。




(近藤真弥)

retweet