イツエ「優しい四季たち」(Dramatic db)

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 ヘヴィーな世界観を構築する音像のなかで、透き通った力強い歌声がドラマティックに響きわたる。瑞葵(ヴォーカル)、馬場義也(ベース)、久慈陽一朗(ギター)、吉田大祐(ドラム)の4人によるバンド、イツエはそんな音楽を鳴らしている。


 ファースト・ミニ・アルバム「いくつもの絵」が大きな話題を集め、その後の全国ツアーではライヴ・アクトとしての力量も見せるなど、着実に評価を得てきたイツエだが、疾走感あふれるグルーヴ、聴き手の心を捉えるまっすぐな言葉といった従来の魅力を深化させた本作は、その評価をさらに高め、より多くの人にイツエの音楽を届けるキッカケとなるのではないだろうか。


 特に興味深いのは、速射砲のように次々と放たれる言葉だ。波の音で始まる「海へ還る」や、《土に帰る》というフレーズが出てくる「はじまりの呼吸」、そして全4曲とも"巡り"のイメージを聴き手に抱かせるあたりは、古代中国に端を発する自然哲学の五行思想を想起させる。しかし言葉は、難解ではない美しいものが並んでおり、その抽象度も手伝って、聴き手の感情移入を誘発する。トゲトゲしさと同時に温かい包容力があるのも面白い。


 サウンド面で惹かれたのは、「はじまりの呼吸」。表現者としての葛藤を歌ったと思われる歌詞も秀逸だが、ニュー・ウェイヴやポスト・パンク的サウンドが印象的なこの曲は、本作中においては爽やかとも言える曲となっていて、イツエの優れたメロディー・センスが如実に表れた曲だと思う。筆者には、マニック・ストリート・プリーチャーズ『The Holy Bible』に収められてもおかしくないように聞こえた。もちろんリッチー・エドワーズばりの強迫的閉所感はないものの、心情が素直に表れている点などで、『The Holy Bible』と共通する"ナニカ"を見いだしてしまった。


 とはいえ、イツエが描きだす世界観は借り物ではなく、イツエにしか鳴らせない音楽を生みだそうとする4人全員の熱意も本作からは伝わってくる。そういう意味では流行に迎合するバンドじゃないけど、それでいいと思う。



(近藤真弥)

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