THE KILLERS『Battle Born』(Island / Universal)

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 わたしはキラーズが大好きだ。キラーズのすべての曲を愛している。ファーストのピュアなネオンの輝きにノックアウトされ、セカンドの骨太なアメリカン・ロックに圧倒され、サードのむせ返るような熱帯夜のグルーヴに酔いしれた。


 とくにサードは凄まじかった。一聴しただけでスチュアート・プライスが手がけたと分かる「Human」は、それまでの彼らの歩みを総括するような傑作だったが、それ以外にもキラーズのまったく新しいアンセムとなった「Spaceman」や、AORの趣さえ感じさせる超名曲「Losing Touch」など、幅の広さという表現では足りないくらいの縦横無尽っぷりを見せつけてくれた。そのアルバム『Day & Age』は、わたしにとっては00年代で一番の傑作である。


 そんな「天井知らず」の彼らにとって、もしかしたら天井になるのかもしれない、というくらいのサードを経た今作がどうなるのか、わたしにはまったく想像できなかった。リリース前のインタビューでは「かなりハードな音になる」とメンバーも話していたが、それじゃあドラマーのロニーのソロ活動(ビッグ・トーク)のようになるかと思ったら、わたしは「ダメダメ!」と振りきりたくなった。あれじゃ、ニッケルバックと変わらないからね(そんなに嫌いじゃなかったけど)。それじゃ、ブランドンのソロ作からの影響があったりするのかな? それはあり得る。カントリーから王道のロック・アンセムまで、ある意味「何でもあり」のソロ・ワークを堪能した彼にとって、そこで得た経験を生かさないわけがない。


 そこで、最初に公開された音源「Runaways」を聴いてみると・・・これはブランドンのソロ・アルバムのファースト・シングルそっくりじゃないか! でも、深みが格段に増している。これはロニーのドラムによる貢献が大きい。ファースト以降の彼らの代名詞でもあるドライヴ感溢れる演奏。それぞれのパートがまったく違った構成を持つ複雑さにも関わらず、両手を挙げて一緒に叫びたくなるほどアンセミック。単なるハード・ロックに陥らない軽やかさまでをも兼ね備えている。これははっきり言って2012年きっての大名曲だ。


 時代の気分はハードに移行しつつある。ここしばらくはストロークスのファーストを雛型にした3分間ポップスが幅を効かせていたが、いよいよシンプル・イズ・ベストの風潮は無くなりつつある。キラーズはまたもや時代の先端に立ってみせたのだ。先端すぎて一部の懐古主義に浸る音楽批評家には嫌われているかもしれないが、キラーズが「Runaways」で獲得した称号は、「正真正銘の世界一のバンド」である。


 ところで、わたしはこのアルバムを初めて聴いたとき、正直失敗作だと思った。「Runaways」以外は大したことないな、こんなシリアスなアルバムは彼らに似合わないと、あまり評価しようとしなかった。だが、これはアホすぎる間違いだった。彼らの作品に対する覚悟は過去3作とは比べ物にならない。もしかしたら、キラーズのファン以外にどう受け入れられるのかは未知数のアルバムかもしれないが、バンドのこれまでのストーリーを知っていればこそ、最大級の称賛を与えないわけにはいかない。つまり、彼らはこれまでのアルバムで試してきたサウンドを全肯定しているのだ。評論家のみならず、リスナーからも芳しい評価を得られなかったセカンドのハードな路線を復活させ、そこにファーストのシンセ・ポップをバランスよく散りばめた。


 サードの"曲の後半で限界まで演奏のテンションを高める"「A Dustland Fairytale」は「A Matter Of Time」として、"キラーズ流AOR"の「The World We Live In」は「Here With Me」として、より逞しく生まれ変わっている。ファンが諸手を挙げて歓迎するキャッチーなシングル曲としては「Miss Atomic Bomb」があり、ブリッジ部分ではあの「Mr. Brightside」のイントロを聴くことができる。こんな完全体のキラーズを聴くことができるなんて。まさにこれはすべてオリジナル曲のベスト・アルバムだ。


 まるでヴァン・ヘイレンかボン・ジョヴィのような「The Rising Tide」、ソロ活動以降、ブランドンがやたらに熱を上げているカントリー調の「From Here On Out」といった新境地も開拓したいま、彼らはどういうバンドとなったのか。間違っても、80年代シンセ・ポップなどと形容する人はいないだろう。だが、様々なジャンルのサウンドを闇鍋のなかに放り込んで、不思議とやたらに格好良いアンセムが聴こえてくるのがキラーズなのだ。


 さて、コールドプレイもミューズも日本で人気が出たのに、キラーズだけはぜんぜんダメだ。フジロックをドタキャンしたあたりからどうも相性が悪い。大半のDJは「Mr. Brightside」か「Somebody Told Me」しかまわさない。今回は彼ら自身も「来日する!」と公言してくれているから、もう一度信じて待ってみよう。そのあいだに、この文章を読んで「暑苦しいよう・・・」と思ったあなた、インテリアの邪魔にしかならなさそうな鬼ダサいジェケットのこのアルバムを手に取ることを全力でオススメする。最後の「Battle Born」では思わず笑いが出てしまうはずだ。あまりに雄大で、感動的だから。



(長畑宏明)

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