THE CHAP『We Are Nobody』(Lo Recordings)

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 ばらばらに散らばっているジャンルの要素を、絶妙のさじ加減で音楽に取り入れて、さも当然といった表情でカジュアルに着こなしてしまう音楽性に恐れ入る。ステレオラブ? タヒチ80? ベック? そのどれとも違うのだけれど、共通しているのは大人の遊び心。クラウトロックやノイズ、現代音楽の色の濃い『Ham』も、パンク/ポスト・パンクの匂いのする『Mega Breakfast』や『Well Done Europe』も傑作ではあったけれども、5作目となる本作『We Are Nobody』もかなりの傑作だ。


 イギリスはロンドン、男女5人組の、このバンドの音楽は実験的とも言えるけど、絶対に彼らは実験室にこもらない。過去の作品の要素も含め、徹底的に音楽を遊び尽くして溢れ出るポップ性がある。ニヒルな姿勢は一切なし。それがこのバンドの立ち居振る舞い。適度に跳ねる心地の良いビートにフレンチ・ポップスを彷彿させる甘い男女の歌声とコーラス、少しチープなシンセがカラフルに楽曲を彩り、淡いグルーヴが生み出され、とろけるようなエコーの使い方も洒落ているからにくい。しかもダンサブルで多国籍な音楽性を貫く。


 多国籍とはいえ、彼らは自国イギリスを愛している。ラストにブラーを思わせるメロディ・ラインの「This Is Sick」を持ってくるところに無意識的な愛国心があるんじゃないか(なんだかこの曲での歌い方はデーモン・アルバーンに似ている)。多国籍な音楽は数あれど、本当にグローバルなアーティストは自国を揶揄しない。本作はそれを踏まえたうえでの多国籍性だ。90年代にブリット・ポップというムーブメントがあったが、それは作為的なものだった。どちらかと言えば、『We Are Nobody』を指してブリット・ポップと表した方がしっくりくる。


 思えばイギリスとは音楽の吸収力が高い。なにせ50年代にモダンジャズで踊っていたのだから。それこそビートルズやクラッシュなどを例えに出せばきりがない。ただ、本当に音楽の深い部分は、そう簡単に国境を超えない。いわば、本作の多国籍性とは表面上のものではある。でも僕はそれでいいと思う。他国の伝統に深く首を突っ込むことには、ある種の礼儀が必要だと思うからだ。このバンドはその礼儀において意識的だと思え、必要以上に突っ込まない。それゆえのステップの軽さが音楽を小気味良くしている。


 ユーモアのセンスも良い。ジャケットにコンドームのイラストを描き、本作を「僕らはただのアレだ」と名付ける、ちょっとしたブラック・ユーモア。そんなところにブラーの『Parklife』や『The Great Escape』と同じような毒のカタルシスを感じた。こういった毒が色鮮やかに音として弾けているのを聴くのは、おかしな痛快さがあって、気持ち良く聴き手に刺さる。やっぱり毒がなければつまらない。バンド側は全然意識的ではないと思うのだが、この作品からは作為的ではないブリット・ポップが訪れる予感が漂っている。そう思えるほど良い。過去の作品の足跡を見詰めてたどり着いた境地が『We Are Nobody』。本作ほどワクワクさせられるポップスはそんなにないよ。



(田中喬史)

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