DOMENICO『Cine Prive』(Plug Research / Ultra-Vibe)

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 今作は、ドメニコのソロ名義では初アルバムとなる。+2プロジェクトにおける、モレーノ・ヴェローゾ、カシンとのドメニコ+2『Sincerely Hot』があったり、多くの作品、場所での客演、ブラジルの新しい世代の担い手の一人として、名前を見ることは多かったが、改めて、ドメニコのパーソナルを紹介しておきたい。


 本名は、ドメニコ・ランセロッチ、リオ生まれのイタリア系ブラジル人。父は、70年代から活動しているサンバ・カンサォンのシンガー、コンポーザーたるイヴォール・ランセロッチ。併せて、画家や演出家としての側面を持ち、ジャケット・デザインから舞台、照明までも考えるマルチな才人であり、基本はドラムを担当しながらも、様々な音楽的なスキルにも長け、引き出しも交遊録も広い。なお、ソロ名義とはいえ、盟友たる、先述のモレーノ、カシンのみならず、ペドロ・サー、更にはアドリアーナ・カルカニョットなど馴染みのブラジル勢も名を連ね、脇を固めている。


 この『Cine Privê』は、アメリカ西海岸のフライング・ロータス、ビラルなどエレクトロニカからヒップホップの先鋭までを輩出する現在進行形で注視度の高いレーベル〈Plug Research〉からグローバル・リリースされており、そのレーベルの色に適うように、色彩鮮やかな音と幾つもの実験要素が含まれた内容に帰一している。アンビエント色の強い曲にはブライアン・イーノからの血脈が仄かに浮かび、マニー・マークが参加しているのもあるのか、いつかのベックを思わせるマルチカルチャリスティックかつ、どこかファニーなサウンド・メイクも映える。そして、父譲りのサンバをより現代版にアップデイトしたような曲もあり、それでいながらも、総体的にどこか、ラウンジ/モンド・ミュージックのムードが通底している。また、日本でいえば、トクマルシューゴ、コーネリアスなどとの共振性も感じさえもする楽器に混じる多くの奇妙な音色、非・楽器の使い方まで含め、音風景の奥行きにリ・デザインを試みるようなところからして、"真剣な遊び心"が功を奏しているような風趣も要所でうかがえる。


 ミックス、マスタリングはビースティー・ボーイズ、ベック、ジャック・ジョンソンなどを手掛けたマリオ・カルダート・ジュニア。ラフなダイナミクスよりも、サウンドの角が矯められたまろやかさを帯びながらも、不思議とサイケな質感を保つ。


 こう書いてゆくと、いかにも散漫な作品としてとっつきにくい印象を受けるかもしれないが、味わいのある朴訥とした彼自身のボーカルによって多種多様な曲群に一種の制御性、纏まりをもたらせているのは特筆しておきたい。


 思えば、『Sincerely Hot』の際のインタビューで彼は、「楽器それぞれの音が基本であり、そこにセッションを加え、色を付けていき、アイデアがあれば、歌詞をつけて、歌い始める。」、そんな旨を言っており、自分の作ろうとしている音楽はバート・バカラックのような映画のサウンドトラックのようなものかもしれない、との通り、まずは「音」から始まったのは今作でも共通しているといえる。勿論、ブラジル音楽の歴史に対しては、しっかり敬慕を払いながらも、実験/前衛要素を織り込み、自らの声を主軸に置くことで、新しい躍動を得たのは頼もしい。


 音楽が元来、孕む「楽」しみそのものを再発見できる作品だと思う。




(松浦達)

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