CALEXICO『Algiers』(Anti / P-Vine)

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 キャレキシコの7thアルバムとなる『Algeirs』がAnti-(アンタイ)からリリースされた。前作『Carried To Dust』までは《Touch & Go》傘下の《Quarterstick Records》に在籍していたけれど、《Touch & Go》の閉鎖にともなってしばらくレーベル契約がなかったことは、フリー・ダウンロードのライヴ・アルバム『Live In Nuremberg』を紹介したときに書いた通り。そして今、トム・ウェイツを筆頭にニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズからベス・オートン、ニーコ・ケイス、そしてケイト・ブッシュまでを擁するアンタイにキャレキシコがその名を連ねることになったのは必然だとさえ思える。レーベル名が示すように"アンチ"であること。英文表記である〈Anti-〉のハイフンが大事。アンチの後ろに何を置くか? 何に対してアンチなのか? 本質的な意味でのパンク・スピリット/インディー(独立性)としての姿勢が、その名によって問われることは言うまでもない。


 ジャイアント・サンドを母体としながら、15年以上に渡って独自のサウンドを追求してきたキャレキシコにはぴったりのレーベルだと思う。ジョーイ・バーンズとジョン・コンヴァーティノの2人が中心となって鳴らし続けてきた音楽には、"オルタナ・カントリー"というカテゴライズさえ不要だってことは、彼らのファンならとっくにわかっているはず。テックス・メックスやマリアッチをブルース/フォーク・ミュージックと融合し、ポスト・ロックにも接近するサウンド・プロダクション。ルーツ・ミュージックを纏いながらも、時間と空間に囚われない自由な発想。彼らは、そのユニット名であるCALEXICO(アメリカとメキシコの境界)が示すように、ボーダー・ラインに対するアンチを貫いてきたといえる。


 聞き慣れない『Algiers(アルジアーズ)』って何だろう? それは、彼らが今作をレコーディングしたニューオリンズにある町の名前とのこと。打ち寄せる波が描かれたアートワークも印象的だ。アルバムはそのイメージどおり、アコギのストロークとストリングスが静かに絡み合いながらうねりを増す「Epic(叙事詩)」と名付けられた曲で幕を開ける。憂いを帯びたメロディは優しいけれど、どこか不穏。ニューオリンズと海っていう組み合わせは、ハリケーン・カトリーナからの歳月を思わずにはいられない。2曲目の「Splitter」は一転して、軽快でポップ。今までの彼らにはなかったほどの明るい曲調とは裏腹に「分配器」とも訳せるタイトルそのままに、現実と理想に引き裂かれる誰かの姿が歌われている。


 今までのキャレキシコの個性を際立たせていたラテン風のメロディや哀愁のマリアッチ・ホーンは、想像以上に控えめ。むしろ、このアルバムで心に残るのは先述した「Splitter」や「Fortune Teller」から「Para」への流れ、「Better And Better」、「Hush」といったアコースティック・ナンバーだ。耳を澄ませてみれば、息を呑むほどに流麗なストリングスと緻密に構成されたリズム・パターンが聴こえる。誰もが口ずさめるような歌の向こうに、彼らがずっと鳴らし続けてきた幽玄なサウンドが結晶している。歌の普遍性を引き立たせるパーソナルな視点は、サーストン・ムーアの『Demolished Thoughts』とそのアルバムをプロデュースしたベックの『Sea Change』のようだとも思う。アプローチの変化、という側面も含めて。


 語りかけるように聴こえるキャレキシコの歌。焼け付くような日差しと砂ぼこり、湿った夜の風が吹く情景に変わって思い浮かぶのは、聴く人それぞれの日常かもしれない。ジャケットをもう一度見返すと、僕たちの国に打ち寄せた「あの波」に似ている、と気づいた。偶然だし、キャレキシコのメンバーは知る由もないことだってわかってる。でも、あのことを歌ったどんな歌よりも、このアルバムが切実に響く瞬間が僕にはある。音楽って、そういうものだと思う。


(犬飼一郎)

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