キリンジ『Super View』(日本コロムビア)

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 2012年10月15日にHPにて発表された堀込泰行氏の来春、脱退のニュース、そして、キリンジ自体の暖簾は堀込高樹氏が続けてゆくこと。そこには二人で協議が詰められた言葉が並んでいた。兄弟であること、それを踏まえ、創作姿勢に向き合うこと、戸惑いも含め、堀込兄弟を軸にしたキリンジが終わる、というのは感慨深さよりも、唐突さもおぼえた。


 キリンジは作品毎による変化、堀込泰行氏の馬の骨での活動のみならず、各々が作曲、客演、プロデュースなどを行ない、そのマルチな才能を十二分に巷間にアピールしていたものの、最終的にはキリンジとして、あの二人が並ぶ安心感を持って見ることができていた。約2年振り、9枚目となるオリジナル・アルバム『Super View』は9曲という尺ながらも、これまで以上にダイナミクスと、マジカルな音が行き交う質感、その背景に寂寥が垣間見える。


 1曲目の「早春」から冨田恵一氏のストリングスが混じり、少しずつ景色が開かれてゆくようなアレンジメントと歌詞が美しい。《ぬかる道で躍るのかい 尻尾が千切れそう 遠くで呼んでいる》、そして、《wake up》の壮大なコーラスとともに、日本の慕情溢れる言葉が並べられてゆく。ナイアガラ・サウンド的に作り込まれた、というにはもう少しラフなところが今の彼らの温度なのだろうか。ブラックな言い回しとイロニカルの側面ではない、麗しく優しい大人のキリンジが舞い上がる。


 2曲目の「Trekking Song」は近年の彼らに見受けられるカントリー調がベースになった躍動感溢れるポップな曲。爽快なハーモニーワーク、幾つもの楽器が有機的に混ざり合い、ユーフォリックな空気感で聴き手の背中を押してくれる。《鏡の街に生きて 俺は幻、ブロッケンか こだまする靴音を道に捨てて みんな還る 安らぐところへ》のブレイクも曲自体の立体性を深めている。この2曲の作詞/作曲は堀込高樹氏になっている。


 続く、堀込泰行氏の作詞/作曲の「荊にくちづけを」での勢いあるイントロからウェスタン調の男気が滲む歌。兎に角、どの曲も骨子はシンプルながら、情報量がこれまでよりも多いのが今作の特徴かもしれない。しかしながら、過去作にあったようなバランスや捻じれを先に置いたという印象ではなく、豪奢で眩い音像の向こう側に。彼らの声やギターのストロークなどが軋む、そんな雰囲気がある。そのためか、先行配信シングルの「涙にあきたら」が曲単体で聴いたときよりも、アルバムの流れではとても端整なキリンジの本懐が際立っているようにさえ思える。


 堀込高樹氏の作詞・作曲、ミニマルな電子音をベースにした穏やかな彼ら流のセンスが冴える艶めかしいソウル「いつも可愛い」。音数を少なくしているがゆえの、《君はいつも可愛い 後ろ手でスイッチ切ったbaby いつも可愛い 暗闇の魔法で魅せてくれ いつも可愛い君 甘い夢だけ見ていたいね 二人のときは》のラインでのハーモニーとヴォーカリゼーション、蠱惑的な展開。性的メタファー、モティーフをときに大胆に忍ばせることに長けていた彼らだったが、キャリアを重ねて、こうして直截的なフレーズ群から高級なパフュームのようにエロスが香り立つようになっているのはさすがだ。弾き語りをベースにしたシンプルな堀込泰行氏の作詞・作曲「今日の歌」。馬の骨でも伺えた凛とした歌詞が響くもので70年代のUSのシンガーソングライター的な風合とのシンクも感じる。そのまま、堀込高樹氏作詞・作曲の曲が二曲続く。震災を意識したという先行配信曲「祈れ呪うな」の弾むリズムが後半の構成にうまくはまっている。「バターのように」は、風通しの良い曲で、アイルランドのティン・ホイッスルが清冽なイメージを加えている。本編ラストの堀込泰行氏作詞・作曲の「竜の子」(たつのこ)は声と弾き語りで始まり、パーカッションなど加わっていき、拡がりを持ったまま残響内で作品は幕を閉じる。


 9曲で聴き応えはあるが、コンパクトな感じも受ける。キリンジに付随してきた都会性やシティー・ミュージックという要素も含まれつつ、アルバム・タイトルどおり、"Super View"、見渡しの良さを重視し、緻密に作り込んだ、というよりもまっすぐに自分たちのしたい音楽と自然と対峙した内容になっていると思う。更に、ルーツ・ミュージックへのオマージュがより強くなり、どの曲にも淡さと滋味深さもある。やはり、キリンジもキャリアを重ね、円熟ではないが、こういった作品に行き着いたというのも興味深い。これまで以上に、聴き手はキリンジに持っていた構えをといて、フラットに入ることができる気がする。


《手を離すな 心を寄せ合って騒げ 宴の声よ 

寄る辺なき日々も見つけるだろう》(「今日の歌」)


 つまり、キリンジは形を変えても、まだ寄る辺なき日々を見つけて往くのだろう。"ソング・サイクル"も"彩"も抜けて。



(松浦達)

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