RHYE「The Fall」(Innovative Leisure / Polydor)

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 ヨーロッパ出身、某バンド・メンバーがやっているといわれるLAを拠点とする匿名的なソウル・デュオ。あるメディアではシャーデー・ミーツ・エールの折衷を謳われつつ、多くのリスナーが内実を詮索をしている。スムースな音像にはセクシュアルで透明な艶やかさが包まれている中、ストイックな鍵盤の響き、伸びやかなフィメール・ヴォイスのエコー。今年の2月にふとサウンドクラウドに公開された「Open」の蠱惑性にも少なくない人が魅かれたのも記憶に新しい。


 来年2月にはフル・アルバムを控えるというが、このシングル「The Fall」も素晴らしい。刻まれるブレイクビートは少しのもたりを帯び、そこに絡みつくように優雅なストリングスが静謐に空気感を変える。チルアウト、アフターアワーズ・ミュージックのような気配もありながらも、シングルに収められているライヴ・ヴァージョンを聴けば、ラウンジ・ミュージックを通り越したネオ・ソウル、そういった感覚さえ受ける。つまり、サウンド・デコレーションのみで捉えると、心地良さそのものに奪われるが、それだけではない声のみの澄み切った美しさ。エディットされたものもいいが、ライヴ・ヴァージョンには"散種"の気配がする。


 大文字の「愛」的な何かを、その意味を遡るとき、それは過去に存在していたかどうか、または、過去にそのような意味で使われていたかどうかは関係のないものとみなしながら、過去には別の意味で使われていたかもしれない。しかし、それは遡ることは出来ないとして、今後はある言語の内部で新たに「別の意味」が設けられてしまう。ゆえに、その意味は多義性という枠ではなく、一つの意味に回収され得ず拡散してゆくこと。つまり、「愛」が「愛的な何か」として2012年にそのままに届けられる不思議さがここにはある。


 あまたのエッジある音が溢れる趨勢に向けて、ふとこういった甘美で不思議な音楽が生まれてしまうことに昂揚もする。無論、このライ(Rhye)というデュオを巡ってのポテンシャルははかりしれることなく、謎も多い。モノクロの裸体をモティーフにしたジャケット、淡い夜を柔らかく閉じ込めたMVからしても、意図的な要素も孕み、フル・アルバムへの飢餓感を煽るには十二分な導線を敷く。例えば、ドラムンベースをアート・フォームとしてゴールディーが都市生活に溶かし込んだように、トリップホップをシンフォニックにホールへ拓かせたポーティスヘッドのように、ダブステップとオーケストラの昇華を藝術的に行なったサブモーション・オーケストラのように、ライは半ば確信犯とも思えるように、音楽が包含する優雅さを泳ぐ。


《Don't Run Away, Don't Slip Away My Dear》(「The Fall」)


 行かないで、と懇願するその先には個として親愛なる人(My Dear)というよりも、不明瞭なマスに向けた愛的な何かへの予感に寄り添っている、そんなムードといい、匿名デュオとしての立ち位置を踏まえ、絶妙なバランスで今を照らす。愛の歌が愛と歌うだけでは成り立たない、そんなことを彷彿させるようなこの時代のソウル・ミュージックだと思う。



(松浦達)

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