パッション・ピット

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PASSION PIT

正しい場所を見つけられたのかというと
まだ見つけることはできていない気がする



2012_08_passion pit_A1_IMG_9288.jpg全米初登場4位を記録したセカンド・アルバム『Gossamer』は、パッション・ピットの特徴である煌びやかなポップ・サウンドに磨きがかかり、さらにはマイケル・アンジェラコスのソングライティング能力の向上が窺えるなど、本当に素晴らしい作品となっている。

とはいえ、『Gossamer』の制作過程はマイケルにとってかなりハードなものだったようだ。

そんな『Gossamer』について今回マイケルから話を聞いたわけだが、インタビューを終えたとき、ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンが残した言葉を、筆者はふと思い出していた。その言葉は次のようなものである。

「陽気なポップスを作るのが陽気な人間だと思ったら大間違い」。

この言葉、マイケルにピッタリ当てはまるような気がしてならない。そう思えてしまうインタビューだった。



今日はよろしくおねがいします。日本にはいつ頃着いたんですか?

マイケル・アンジェラコス(以下M):二日前だよ。昨日までオフだったんだけど、いくつかクラブへ遊びに行ったりしたし、楽しませてもらってるよ。

それは良かった! ではさっそくインタビューを始めますね。最新作『Gossamer』は全米初登場4位という、前作『Manners』と比べて大きく躍進したわけですが、チャート・アクションは気にするほうですか?

M:多くの人に認められたという意味では、『Gossamer』の躍進はすごく嬉しいし、それを無視するわけにはいかないけど、一方で、チャート・アクションにまったく関心を持てない自分がいる。僕は音楽を売るために音楽を作っているのではなく、音楽を作りたいから作っているわけで。何週間か良いチャート・ポジションにいたとしても、半年も持たずに忘れ去られていくバンドもたくさんいる。だから僕としては、記録よりも記憶に残るような音楽を目指して作っているつもりだよ。

なるほど。『Gossamer』は、『Manners』よりもさらに多彩なポップ・アルバムになっていると思いました。例えば、壮大なコーラス・ワークとオーケストラルなプロダクションを取りいれた「On My Way」などは、あなたのソングライティングの振り幅の広さを感じさせます。

M:うーん、僕としては、『Manners』よりも『Gossamer』が多彩なポップ・アルバムになっている、という感覚はないんだよね。たぶん、『Manners』から年月を重ねてさらに良い曲を書けるようになっただけのことだと思うんだ。『Gossamer』も『Manners』と同様、好きなように作ったアルバムだからね。

「好きなように作った」ということですが、あなたにとって音楽とは自己表現の手段だからそのような言葉が出てくるのかなと、今ふと思いました。

M:そうだね。ラジオでかかるために曲を書いているわけではないし、言ってしまえば、僕は自己満足のために音楽を作っている。それも、アーティストとしての自分が満足するための音楽ではなく、リスナーとしての自分が満足するための音楽を作っている。僕としては、作り終えてからもう一度聴きたくなるようなアルバムを作れたら、それで成功なんだよ。もちろんそうやって作られたアルバムをどう捉えるかは人それぞれだし、好意的に受け止めてもらえたら嬉しいけど、もし興味が湧かないんだったら、「そう、じゃあ他の音楽を聴いてよ」としか言えないよね(笑)。

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(笑)。本当に自分が作りたいように音楽を作っているんですね。

M:その通り。それが良かったのかはわからないけどね(笑)。好きなように作れる環境を与えてもらったのは嬉しいけど、自由をもらってしまうと、どうやって作ったらいいのか困ってしまうこともある。

そのフリーダムな環境のせいなのか、『Gossamer』に収録された曲のほとんどで膨大な数のトラックが使われているそうですね。最大でどれくらい使っているんですか?

M:確か280トラックかな。最終ミックスの段階では120トラックくらいにまとめたんだけど、どの曲も最低120トラック以上はあったから、最終ミックスはほんと大変だったよ。

それだけ多くのトラックを使っていながら、ヘヴィーな音像ではないのが面白いと思います。それに『Manners』と比べて、『Gossamer』には空間がありますよね。

M:その指摘は鋭いと思うよ。ほんとその通り。『Manners』と比べて『Gossamer』には空間があるし、空間ができるように意識して作ったからね。なぜそうなったのかというと、トラックの使い方が分かってきたというか、コツみたいな心得を身につけたからだと思う。だから大量にトラックを使っていても、聴き手に空間を感じさせることができる。それと、『Gossamer』で大量のトラックを使うことになったのは、頭のなかで鳴っている音をすべて出し切りたい、ひとつひとつの音を漏れなく表現したいという僕の質のせいなんだ。というのも、いま思えば『Manners』では、僕がやりたかったことの最低限しかできなかった。でも、『Gossamer』では自分がやりたい最大限のことができたと思うし、その点ではすごく満足している。でもさ、こうやって喋っていても変だと思うでしょ?(笑)。頭がおかしい人が収集のつかない話をしているように思うかもしれない。実際漏れなく表現したせいで、それらの音を整理するのが大変だった。

いえいえ。あなたのそういう"マキシマリスト"なところは好きですよ(笑)。

M:ありがとう(笑)。でも、その"マキシマリスト"としての欲求を満たした現段階で次のレコードについて考えてみると、『Gossamer』のようなものにはなりそうにない気がする。

それはまたなぜですか?

M:別に次のアルバムのヴィジョンが見えているわけではないけれど、僕はやりたいことがコロコロ変わる人間だし、少なくとも『Gossamer』のように"マキシマム"なものにはならないことだけは確かだよ。だって疲れるもん(笑)。

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(笑)。音を漏れなく表現したい質だということですが、歌詞のほうも、あなたのパーソナルな部分が漏れなく表現されているのではないでしょうか?

M:それもその通りだよ。君、ちょっと怖いくらい鋭いね(笑)。『Gossamer』は僕にとってすごくパーソナルなものだし、自伝的作品だと言える。『Gossamer』の歌詞は、すべて僕の身に起こったことを基に書かれたものなんだ。ほぼ100パーセント事実だと思ってもらっていい。ただ、最初から自伝的なことを書こうしたわけではなく、『Gossamer』のためにたくさん歌詞を書いていたら、自然とそうなったんだ。

パーソナルといえば、「I'll Be Alright」の歌詞は『Gossamer』に収録された曲のなかでも、特にあなた自身のことに近い気がします。歌詞を読んだ限りでは、『Gossamer』の制作期間中にあなたが陥った、ソングライティング面でのスランプ状態の出来事を想起させるからです。

M:「I'll Be Alright」は、スランプ状態そのものについて歌っているというより、スランプ状態に陥った原因について歌っている。僕は躁鬱病を抱えているんだけど、"躁"の状態から落ちていくとき、アルコールに走ってしまったんだ。そのことで周りの人たち、特にフィアンセを傷つけてしまったんだけど、そのときの僕は、僕だけが辛いと思ってしまうような状態にあった。そして、僕がそんな状態でいることが周りの人たちを辛い気持ちにさせてしまっていた。そのことに気づいたとき、僕はどん底状態にいるような気分になったんだ。そして、そういうどん底状態というのはすごく危ういものなんだよ。フィアンセに「今は一緒にいられない」と、別れ話をしてしまうくらいにね。いま話したような出来事について「I'll Be Alright」では歌っているから、この曲は僕が辛い状況にあるときのなかでもとりわけ辛い時期が反映されている。「特にあなた自身のことに近い気がする」ということに関しては、僕のなかではパーソナルの度合いに違いはないよ。『Gossamer』に収められた曲はすべて自分に対する問いかけだし、『Gossamer』自体自分の居場所探しのために作ったようなものだから、本作における曲の役割は、そのための"さまざまな視点"ということになるのかもしれない。だから「I'll Be Alright」も、その"さまざまな視点"のうちのひとつにすぎない。

なるほど。そうすると、今日話してくれた葛藤や苦難を、あなたは乗り越え、居場所探しに成功したということなのでしょうか?  というのも『Gossamer』は、《ぼくはひとつの場所に行きついた ぼくは自分たちにふさわしい場所を発見した》と歌われる、「Where We Belong」で幕を閉じるからです。

M:それは違う。「Where We Belong」で歌われている"場所"というのは、自殺を試みるといった意味での"場所"なんだ。つまり自殺をするための場所を見つけた、そこが行き着くべきところなんだと歌っているんだけど、それはなんの解決策にもならないとも歌っている。そういう意味では、「Where We Belong」は曖昧なまま終わっている曲だと言えるけど、僕自身に例えて言うなら、苦しい状態のときにふと水面に浮かぶ自分の顔を見た。そのとき、「これで楽になれるのかな?」と思うんだけど、その"楽"というのは、自ら命を絶つことで得られるものだった。でもそれは、そう思い込んでいただけであって、いまこうしてここで『Gossamer』について話ができているのは、僕にとって様々な誘惑に勝利したということなんだ。ああいう精神状態のときは、これですべてから解放されると思っていた解決策が、実はとんでもない間違いだったというのはよくあることなんだけど、『Gossamer』ではそういったことに向き合ったから、制作はサバイバルみたいなものだった。「Where We Belong」では間違った居場所を見つけてしまったけど、じゃあそんな状態から抜け出した今、僕にとって正しい場所を見つけられたのかというと、まだ見つけることはできていない気がする。それでも、ああいう精神状態から抜けだせたということ自体が、すごく重要なんだと思う。

2012年8月
取材、文/近藤真弥


2012_08_passion pit_J.jpg
パッション・ピット
『ゴッサマー』
(Columbia / Sony Music)

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