ITAL『Dream On』(Planet Mu)

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 プロモ資料に書かれていた「2012年インディー・ダンスの核弾頭!」というフレーズを見たときは思わず笑ってしまったが、前作『Hive Mind』から約8ヶ月ぶりとなる『Dream On』は、そう言いたくなる気持ちも分かるような快作に仕上がっている。


 『Hive Mind』は、インディー側からハウス・ミュージックを更新する刺激的なアルバムだった。典型的な4つ打ちではなく、どこかズレのあるビートであったし、グルーヴも空間をねじ曲げるようなサイケデリアを生みだしていた。お世辞にも前のめりとは言えないが、ダウナー系のトリップ体験を聴き手にもたらす、言ってしまえば"劇薬"のようなアルバムである。


 それに比べて『Dream On』は、とてもアグレッシブで攻撃的だ。まず、1曲目の「Despot」からして素晴らしい。レイヴィーなヒット・サウンドから始まり、そこにデトロイト・テクノを思わせる壮大なシンセ・ストリングスがするりと交わる瞬間は、今までにない音世界にいることを聴き手に自覚させてくれる。トライバルですらあるチャカポコしたリズムを聴いていると、どうしてもデリック・メイを想起してしまうのだが、アイタルは過剰とも言えるノイジーな領域に踏みこむことで、"アイタルのテクノ"を鮮やかに獲得している。


 アルバム全体としては、4/4リズムを基本としたトラックが多い。しかし、続く「Boi」はディスクロージャー周辺のR&B色が強いガラージとも共振するスタイリッシュなトラックである。とはいえ、そこはアイタル。中盤以降はデトロイト・テクノ風のシンセ・ワークを荒々しくフィーチャーし、カオスな高揚感と恍惚をもたらしてくれる。


 このように、本作におけるアイタルは明らかにテクノ、それもデトロイト・テクノの影響を顕著に示していると思う。「Eat Shit(Waterfalls Mix)」「Enriquel」といったエクスペリメンタル・トラックにまでそれは及んでいて、特に「Enriquel」は、デトロイト・テクノをスクリューなトリルウェイヴの文脈で解釈したトラックと捉えることも可能で、さらにはインダストリアルやノイズ/ドローンも取りいれるなど、過去から現在、そして未来をも自由に行き来するフットワークの軽さは、あらゆる時代の音楽にアクセス可能となった"今"だからこそ成しえたのだと思う。「Enriquel」は、文字通り"時代の音楽"として新時代の到来を堂々と宣言しており、聴き手の感覚を拡張する新鮮なブツだということだ。


 いまだに"インディー"といえば"ロック"とイコールさせる者が多く、デトロイト・テクノも、その宇宙的イメージが言葉で語られてしまう音楽と化し、感覚的とは言えなくなってしまったが、このような数多くの硬直化を『Dream On』は爽快に打破していく。それは"インディー・ダンスのネクスト・レベル"といった狭いものではないし、もっと多くの人たち、つまり『Dream On』の衝動的ダンス・ミュージックは、音楽に関わるあらゆる人たちの意識に変革を促すアキネトン(筋肉の硬直などを改善する薬)のようなものだ。



(近藤真弥)

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