シャムキャッツ「GUM」(Pot)

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 テレビの前に行儀よく座って、ヒーローが登場する戦隊ものを観ていた経験、皆さんにもあったのではないだろうか。


 かつて私が少女だったころ、テレビに出てくる誰にも負けない正義の味方に恋をし、これから始まるであろう冒険に胸を焦がしていた。興奮が抑えきれず、気づけば眠気もすっかり覚めてしまう日曜の朝は、いつだって待ち遠しいものだった。


 どんどん年を重ねるにつれて、燃えるように胸が熱くなることも、胸が揺さぶられて涙が止まらないことも、ほとんど無くなってしまった。けれど、シャムキャッツの『GUM』には胸をぐっとつかんで離さない、忘れかけていた感情が丁寧に落とし込まれている。


 メロディーラインは、スピッツ、はっぴいえんど、ビートルズ、くるりを想起させるポップでキャッチーなメロディーが際立つ。しかし、XTCやペイヴメントのような、随所にちりばめられる一筋縄ではいかないメロディーは、さっと聞き流してしまいそうなメロディーに歯止めをかける。ひねくれたポップス、これが何度でも聴きたくなる所以か。そして、何を隠そう、このバンドは歌詞が大変素晴らしい。特に歌詞の素晴らしさを感じた楽曲は、このアルバムに挿入されている4曲目の「サンシャイン」だ。


 《あの子の瞳は3月の海のよう/裸足で入るときっと僕は凍るよ/おねがいひとつでいいから叶わないかしら》

 

 この曲は、恋をした男性の心情を書き表した楽曲だろう。好きな子を見つめると、緊張して身動きがとれなくなる。少しでも良いから、彼女の一部になりたい。切に願う気持ちを《おねがいひとつでいいから叶わないかしら》と表現している。直接的に表現しない曖昧な表現であるにも関わらず、想像だけで鮮明に様子や風景が思い浮かび上がるのも素晴らしい。


 また、シャムキャッツが描く都市は、どこか都会を俯瞰/客観しているように思える。というのも楽曲を主に作っている夏目知幸(G/Vo)が千葉県出身で、郊外から都会を見ていたため、都会の中心地からではなく、どこか遠くから眺めているように見えるのではないだろうか。


 そして、強い言葉ではないのだけれど、聴いた者の心に愛や勇気、そして希望...人の心に必ず何かを宿す歌詞。信じられる言葉がひとつあるだけで、人はとても強くなるもの。


 ラストを飾る「BOYS DON'T CRY」のなかで、《一体どうだい/破れたマントで旅をしてるんだろう/がらくたばっかのポッケがべたついてら》という歌詞がある。これだけ聴くと正直言って滅茶苦茶にカッコイイわけではないけれど、私にとってシャムキャッツは、まさにヒーローと言っても過言ではない。いつだって登場が待ち遠しいし、正義の味方でいるのだ。


 今作から菅原慎一(G/Cho)も歌に参加し、さらに楽曲がヴァリエーション豊かになり、12月には新作アルバム『たからじま』が発売されるシャムキャッツ。更なる飛躍に期待し、次回作を楽しみに待っていよう。



(立原亜矢子)

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