ANDY STOTT 『Luxury Problems』(Modern Love)

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 05年に、《Modern Love》から「Ceramics」「Replace EP」「Demon In The Attic EP」をリリースした当時のアンディー・ストットは、まぎれもないベーシック・チャンネル・フォロワーであり、音楽性も"テクノ"の領域を出るものではなかった。いま挙げた3作品をキッカケにアンディーは瞬く間に注目されるが、それはあくまで"テクノ"という範疇における出来事で、ジャンルの壁を越えるほどのクロスオーヴァー性があったわけではない。


 だが、リリースを重ねるごとにアンディーは、"テクノ"というタグから逸脱した音楽性を徐々に顕在化させていく。特に去年の『Passed Me By』は、ダブステップをインダストリアルに調理したようなザラついた質感が際立つなど、それはもはや、"テクノ"という単一タグで括るのは不可能な代物であった。


 そして、『Luxury Problems』である。プレスリリースでは「セオ・パリッシュとシャーデーの中間くらいの音楽を壊したようなアルバム」と説明されているが、いやいや、はっきり言ってその程度のものではない。本作はブリアルジェームズ・ブレイクの領域、いわば"破壊的創造"に位置するアルバムだ。従来のタグ付け/ジャンルをことごとくかわし、純度の高い音として、ただそこにある音楽。


 もちろん"○○みたい"と語ることは可能だ。全8曲中5曲に、アンディーのピアノ教師だったというアリソン・スキッドモア(Alison Skidmore)をヴォーカルでフィーチャーするなど、本作でアンディーは"声"にフォーカスを向けている。それが顕著に表れているのは、オープニングの「Numb」だろう。


 《タッチ・・・タッチ・・・》と何度も繰りかえされるその呟きは、ダンス・ミュージックの持つドラッギーな側面のなかでもさらにダークな部分だけを抽出したような雰囲気を醸しだし、聴き手を孤高の音世界に引きずりこむ。こうした方法論で聴き手を内観に導く点も、ブリアルやジェームズ・ブレイクと共通するものだ。


 アルバム全体としてはロウなグルーヴが目立ち、そのスクリューな音像からはトリルウェイヴとの親和性を見いだすことも可能だ。「Sleepless」はモロにそれで、スクリューのかかったヴォーカル、ドロドロに溶けた音粒、不穏な空気で満ちたビートがそれぞれドス黒いサイケデリアを漂わせ、聴き手の平衡感覚を狂わせる。


 このように様々な音楽的要素で構成された本作を、特定の呼称で言いあらわすことなどできるだろうか? 要素はあくまで要素でしかなく、音は音でしかない。それを可能にするため、アンディーはすべての音からあらゆる情報を剥ぎとり、そうすることで、従来の価値観や音楽的文脈から見事に逸脱している。


 そんな本作は、知識と理性では到底理解できない場所にそびえ立つ荘厳な建築物のようだが、これを世間はどう受けいれるのか? その受けいれ方によって、現在の聴き手が持つ意識や価値観の一端を知れるとなれば興味深いが、そういった意味で『Luxury Problems』という怪作は、アンディーから我々に対する問いかけ、挑戦状と言えるのかも知れない。



(近藤真弥)

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