VARIOUS ARTISTS『Soon V.A』(ano(t)raks)

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  最近盛りあがりを見せる、C86やアノラックに影響を受けた日本のインディー・ポップを聴くと、デス・イン・ヴェガスを思いだすことがある。ただしそれは音楽性ではなく(音楽的にはほとんど似ていない)、"あくまで自分が表現したい音楽を追求する"という点で。

  デス・イン・ヴェガスといえば、イギー・ポップ、ポール・ウェラー、ボビー・ギレスピー、リアム・ギャラガー、ジム・リードなど、豪華なヴォーカリストを迎えてきたことで知られているが、これらのコラボレーションはアピール・ポイントを得るためでも、慣れあいの友達関係でなんとなく参加してもらったわけでもない、あくまで自身の表現欲求を満たすためだけに実現させてきたものだ。

  例えば、デス・イン・ヴェガスの代表曲「Aisha」に参加したイギー・ポップには、愛情に満ちた長文の手紙をしたためて送ったというエピソードがあるように、デス・イン・ヴェガスは参加アーティストを最大限のリスペクトでもって迎え、ある種の理想主義に基づく音楽を生みだしてきた。

  とはいえ、そうした精神と理想主義もいまや、"絶滅"とまでは言わないが、"古き良き時代"として歴史の片隅に追いやられてしまった・・・はずだったが、そんな精神と理想主義に、近年の若いインディー・ポップ・バンド達、それもここ日本のインディー・ポップ・バンド達が新たな息吹を吹きこんでいるのではないか? そう思わせるだけのキラメキが、日本中のインディー・ポップ・バンドが集結したコンピレーション・アルバム『Soon V.A』にはある。

  本作には、大阪からザ・パエリアズ(The Paellas)、ポスト・モダン・チーム(Post Modern Team)、フーディー(Foodie)の3バンド。他には東京のユース・イン・マイ・ヴィデオテープス(Youth In My Videotapes)とボーイッシュ(Boyish)、京都のホームカミングス(Homecomings)、名古屋のオールド・レーシー・ベッド(Old Lacy Bed)、青森のトゥワンギー・トゥワンギー(Twangy Twangy)、そして栃木のザ・ヴァニティーズ(The Vanities)をあわせた計9組が参加している。

  収録曲を曲順通り紹介していくと、オープニングはザ・パエリアズ「Not So Sweet」。2010年に結成された4人組によるこの曲は、ジ・エックス・エックスとC86サウンドが絶妙なバランスで共立している 。ホームカミングスの「You Never Kiss」は耳触りの良いキュートなコーラスワークが印象的で、オールド・レーシー・ベッド「Coastlands」は、ピーター, ビヨーン・アンド・ジョンの「Young Folks」を想起させる牧歌的ポップ・ソングだ。

  甘美なメロディーが素晴らしいポップ・チューン「Coudn't Remember」を提供しているボーイッシュは、NMEで取りあげられるなど海外からも注目を集める新鋭バンド。ユース・イン・マイ・ヴィデオテープス「Summer Rain, Beside Me」はキャッチーなギター・ポップに仕上がっていて、ほんのり切ない雰囲気を漂わせる。

  ポスト・モダン・チーム「In The City」は、ワイルド・ナッシングと共振するピュアなポップ・センスが光る曲。フロントマンの岸田剛は他にも大阪リバティーンズ、NINGENCLUB、TALKINGCITY1994としても活動しており、関西のインディー・ポップ・シーンを盛りあげている人物だ。

  「Honeysuckle」は透きとおるようなヴォーカルとクリーン・ギターが美しい。この曲を作ったトゥワンギー・トゥワンギーは、《ano(t)raks》を主宰し、タイのレーベル《Sea Indie》からもシングルをリリースしているDai Ogasawaraのユニットである。ザ・ヴァニティーズ「Waniwanipanic」はジーザス・アンド・メリーチェインの幻影がゆらめくダンサブル・ナンバーで、ノイジーなギターが颯爽と駆けぬける軽快なトラック。そして本作を締めるのは、明るい曲調と少し甘酸っぱい歌詞が聴き手の心を満たしてくれるフーディー「少年少女」。引きこまれる展開とメロディーが秀逸だ。

  このように本作には、それぞれの個性が発揮された歌が収録されている。それでも本作を"まんまC86やアノラックのインディー・ポップ"、もっと辛辣な者なら、"剽窃"の一言で片づけてしまうのかもしれない。だが、そうやって切りすててしまうのはあまりにも愚かで、本質を見誤っていると言わざるをえない。

  本作に参加したバンド/アーティストは、過去の音楽を参照にし、それらに対する愛情も滲みでているが、この参照や愛情を、自身のなかにあるオリジナリティーとせめぎ合わせることで、"今"に響くフレッシュなポップ・ソングを確実に生みだしている。このことを無視して、本作に収められた曲群を"パクリ"だの"まんま"だのと言ってしまうのは、昔の音楽を懐古するだけの老害とたいして変わらない気がする。

  当たりまえの話だが、音楽は一度たりとも面白くなかったことなどない。その都度、時代に響く素晴らしい音楽は常に生まれてきた。そしてこれらの音楽は、記憶という形で人から人へ受けつがれ、愛される。本作には、そんな音楽のロマンが詰まっている。だからこそ、本作のピュアなポップ・ソングは"今"に響くのだろう。"自分にとって宝物になりえる音楽"を探しているあなたに、ぜひ聴いてほしい作品だ。




【編集注】本作は《ano(t)raks》のバンドキャンプからダウンロードできます。

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