ATOMS FOR PEACE「Default」(XL / Hostess)

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 今年のレディオヘッドのフジロックでのパフォーマンスに関しては色んな意見を聞いた。高度でテクニカル過ぎる、というものから、グルーヴィーで最高、という両極のものまで。シンガロングできる曲は基本、少ないバンドだが、ツアー内でふと演奏される「Karma Police」辺りで緩やかにオーディエンスに差し出されるマイクはサービスなのか、それとも、追憶と鬩ぐオーディエンスたちの儚い幻想へのサルベージなのか、考えてもしまう。


 あまりに巨大化してしまったバンドとしての彼らは或る種、計算された無軌道な活動と突然のニュース、リリースを是とし、多くのメディアからは背を向け、ステイトメントを絞っている。『The King Of Limbs』というパッケージング作品そのものに足りないダイナミクスはやはり、バンド総体として練り込まれたセッションの中で産み出されたものではないという証左で、ゆえに、ライヴではポーティス・ヘッドのサポート・メンバーであるクレイヴ・ディーマーがドラム、パーカッションとして「6人目」の色、身体性を加えている。そのため、よりポリリズミックにミニマルに、グルーヴィーな疾走感を手にしている。プログレッシヴ・ロックの影響下にあった『OK Computer』、IDMへ接近し、バンド・サウンドを静かに傍らに置いた『Kid A』、それまでのベーシックな要素とラグタイム的ななめらかさを含んだ『Amnesiac』など彼らは貪欲に多くのジャンルのクロスオーバーとエクレクティズム、自由を邁進し、ときにそれがラジカルだと一部のメディアでは評された。


 バンドとしての演奏技量、冒険心、演出、美意識など挙げてゆくまでもなく、歩みを続ける中で、トムは06年にソロ・アルバム『Eraser』を出し、他のアーティストの作品に客演し、ジョニーは幾つもの映画のサウンドトラックに携わり、フィルのソロ・アルバムも好評価を得るなど、"五人でのレディオヘッド"をより立体化せしめる恒常性と、DIYによる『In Rainbows』以降からの流通、配信形式、積極的な外部アーティストへの原曲のリミックス・ワークの委託は業界そのものにも影響を与え、多くのアーティストに刺激をもたらせた。反面、彼らの肥大した記号性が先走りすぎているきらいもあり、常に作品、ライヴを巡っては賛否両論も巻き起こすことになったのは言うまでもない。


 さて、2013年、年明けにはリリースされると言われているファースト・アルバムを控えるアトムス・フォー・ピース。既に、日本では2010年のフジロックでヘッドライナーとしてパフォーマンスを見せている。ちなみに、メンバーはプロデューサーとしても敏腕のナイジェル・ゴドリッチ、ベック、R.E.Mなどのキャリアを重ねたベテランのドラマーのジョーイ・ワロンカー、パーカッションのブラジル生まれのマウロ・レフォスコ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリー、レディオヘッドのトム・ヨーク。当初は"Eraser Band"と呼ばれていたとおり、トム自身の『Eraser』をバンド的な有機性で演奏する、そういうスタイルであり、フジロックの際でも、軸はそこにあり、アトムス・フォー・ピースとしての何らかの新曲の打ち出し、ステイトメントがあった訳ではなかった。なお、バンド名はトムのソロ曲の「Atoms For Peace」に依拠するのだろう。ちなみに、アルバム自体がエレクトロニカを基調にした箱庭的なものであり、当該曲もリリック内容は幾分、明るく、決して露骨な表現は出てこない。孫引くまでもなく、"ATOMS FOR PEACE"とは、1953年のNY、国連総会でのアメリカ大統領アイゼンハワーの提議した言葉である。終戦後、そこから競争のように核開発を進める各国にあくまで平和利用のための核を、という想いを込めたものだった。


 2011年には既にアルバムを上梓したとアナウンスが為されながらも、リリース形式は変則的になされている。今夏、初マテリアルは、『In Rainbows』のジャパン・ツアーでのフロント・アクトもつとめ、トムとも親交が厚いモードセレクターのレーベル《Monkey Town》傘下、《50weapons》から「Other Lives」というシングルが出された。限定ヴァイナル、その後は配信もされ、レディオヘッドの今年のUSツアーでサポートしたアザー・リヴズの曲「Tamer Animals」のアトムス・フォー・ピース名義でのリミックス、そして、彼ら自身の曲「Other Side」もリミックスで収録というもの。この「Other Side」は来るべきアルバムに入るだろうが、その「Other Side」とトム自身が《Rag&Bone》のショーのための音楽として提供した、いかにもミニマルな打ち込みのソロ楽曲「Stuck Together」を合わせており、全体像は8分弱のエレクトロニカとしてのラフな部分が浮かぶ。時おり、トム自身が何らかの契機でDJを受け持つとき、アルバムに入るであろう数曲、披露するなどしていたが、DJ用に加工されていたり、よく全体は見えなくもあった。


 各メンバーのプレイヤビリティを考えると、セッションの中で一気に輪郭ができそうだが、ようやくのこのファースト・シングル「Default」は打ち込み、深いリヴァーヴが掛かり、コーラスが重ねられるなど、トムとナイジェル色の強い二次加工の見える曲で、バンド・サウンドという印象は受けないものになっている。リリックも、《I laugh now / But later's not so easy / I've gotta stop / The will is strong / But the flesh is weak /Guess that's it / I've made my bed / And I'm lying in it》という翳りを含んだ相変わらずの基底を抉る。


 正直、ビート・メイク的には最新のものではなく、トムのボーカリゼーションも朗々と響きわたりながら、どうにもメッセージがはっきりと届いてこない。《I avoid your gaze / I turn out of phase》に沿うならば、「あなた」≒巷間の視線を避け、違うフェイズを作り上げたのかもしれないが、現在において、彼らがシーンに投石するための導路は困難だともいえる。新しいビート・メイカーやエッジに立つバンドたちの台頭やさらには、メガ・バンドの燃費の悪さと、反比例しての過度な注視度の高さとジャッジメントの厳しさもあるからだ。


 先進性と強度を含み、何もかも高次で結実できることはないとしても、彼らにはやはり世界の視線と期待が集まっているのも確かだ。この「Default」の時点で、まだ得心できているリスナーは居ないだろうと思うゆえに、早くアルバムの全容を待ちたい。


(松浦達) 



【編集注】本作はiTunes StoreAmazonで配信中。アナログ12インチ盤は10月にリリース予定。

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